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~とある魔術の日常風景 異説「イ・プルーリバス・ウナム」Ⅰ~ ―熾烈な海上魔術戦― ~とある魔術の日常風景 異説「イ・プルーリバス・ウナム」Ⅱ~ ―揺れる少女の問いに魔道書が導き出した最適解。それは世界を焼き尽くす炎核の巨人の暴虐なり― ~とある魔術の日常風景 異説「イ・プルーリバス・ウナム」Ⅲ~ ―蛇― ~とある魔術の日常風景 異説「イ・プルーリバス・ウナム」Ⅳ~ ―『多からなる一(イ・プルーリバス・ウナム)』―
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ここは、第6学区にあるコンテナターミナル。第6学区を主な活動場所にしている過激派救済委員の溜まり場。 「それにしても、刺界・・・じゃ無かった、その界刺っていう『シンボル』の変人は結局来なかったわね、雅艶?」 「・・・あぁ。俺としても驚いているくらいだ。あの『シンボル』の一員ならば、必ず助けに来ると踏んでいたが・・・」 躯園や雅艶達過激派は、この溜まり場で今後の方針を話し合っていた。 直近では春咲桜へ制裁を与えたことに対する穏健派の出方、中長期的では第6学区をうろついている風紀委員への対策。この2点が主な主題である。 「しばらくは、ここに集らない方がいいのではないでしょうか?一時の間は風紀委員達も第6学区に絞った活動を行うでしょうし。 それに、先程の戦闘にて荒我拳は176支部の風紀委員と繋がりがあることが判明しています。これは、情報の漏洩という観点から見ると大きな問題です。 もっとも、荒我自身も救済委員で『あった』ため、彼等が親しい関係ならば他の風紀委員に私達の情報が漏れる可能性はそこまで高くは無いと思われますが・・・」 「私も七刀君の意見に同意するわ。それに、ここは穏健派にも知られている。もし、今回の制裁に対する報復を彼等が考えているとしたら・・・」 「報復!?・・・雅艶兄ちゃん・・・」 「心配するな、羽香奈。確かに刈野の言っている可能性も十分に考えられる。だが、俺達と全面衝突を果たして穏健派の連中が選択するかどうか・・・可能性は低いと思うがな」 「何弱気になってんのよ、雅艶、羽香奈、刈野。あのクズを助けに来ない時点で、奴等の本音なんて手に取るようにわかるわ。 要するに、私達を敵に回したくないのよ。もし、その覚悟があるなら、あの負け犬や『裏切り者』が来る前に助けに来てもおかしくないわ。 それなのに、連中は私達へ“制裁の中断”というすぐにでもやれる交渉・・・つまり連絡の1つすらよこさなかった。わざわざ、羽香奈からメールを送ったっていうのにね」 「さっすが、躯園姉ちゃん!頼っもしい!!」 「林檎。あなたは私が必ず守るから安心なさい。どう、麻鬼?私の推測は?」 「春咲の言い分はもっともだ。奴等穏健派は総じてレベルが低い、あるいは高くても戦闘に向いていない連中だ。 対して、俺達は皆レベルも高く、戦闘にも通じている。何を企んでいようとも、あんな弱腰の連中に遅れなど取らない。違うか、雅艶?」 「・・・あぁ、そうだな」 躯園や麻鬼の主張は的を射ている。穏健派は自分達過激派との衝突は望んでいないだろう。真実を言えば、自分達過激派も穏健派との衝突は望んではいないのだ。 仮にも、同じ土俵で共に戦う同士である。思考や方針の違いこそあれ、仲間であることには違いない。 今回の春咲桜への制裁は、あくまでも『裏切り者』への制裁と、今後は『裏切り者』を発生させないという強い意思を示したに過ぎない。 ちなみに、荒我と斬山の2人は過激派の中で既に『裏切り者』として扱われている。故に、議題にも上がらない。制裁が決定事項であるからだ。 「だからこそ、奴が・・・あの変人だけは春咲桜を助けに来ると予想していたんだが。どうやら、奴にとって春咲桜とは命を懸けるに値しない存在でしか無かったようだな」 「難しい言葉で言わなくてもいいじゃない、雅艶。つまり、あの出来損ないのクズは一緒に救済委員に入った仲間にも見捨てられたってことよ。ホント、傑作だわ」 躯園の高らかな嘲笑がターミナルに響く。雅艶は、界刺についてこれ以上考える思考を回すことをやめる。今は、それ以上に気を割かなければならない事案がある。 「そうだな。もう終わったことについて議論しても仕方無い。とりあえず、目下の懸案は荒我と斬山、この『裏切り者』達への制裁と穏健派の出方を注視すること。 そして、風紀委員への警戒。以上3点が・・・・・・」 「・・・・・・?どうしたの、雅艶?急に黙りこくって?」 急に黙り込んだ雅艶に怪訝な視線と言葉を発する峠。だが、雅艶は言葉を返さない。その顔には一筋の汗が流れていた。 「な、何だこれは・・・!!?」 雅艶が発した驚愕の声に異変を察知した過激派は、周囲へ気を張り巡らせる。 荒我達『裏切り者』が攻め込んで来たのか。風紀委員に見付かったのか。否、そのどちらでも無い。 「あ・・・あれ・・・。な、何・・・?」 最初“ソレ”に気付いたのは羽香奈。主に、立ち位置的な理由で。 彼女はある方向に向かって指を指す。その方向から聞こえて来たのは・・・轟音。 「あ、あれは・・・!?」 刈野が“ソレ”を見て顔を青ざめる。 “ソレ”は・・・“水”。 「何・・・だと・・・!?」 あの麻鬼すら焦りの色を隠せない。“水”は・・・自分達に向かってくる“水”はただの水じゃ無い。それは、まるで・・・“激流”。 海面に接していないこの場所で起こり得る筈の無い光景。大型のコンテナさえも押し流しながら突き進んで行くその頂上に・・・居る者達。 「峠!!何時でも『暗室移動』で転移できるように構えておけ!!」 「わ、わかった!!」 「おい、雅艶!これは、一体誰の仕業だ!?お前なら、『多角透視』ならその姿を捉えているんだろう!?」 峠に指示を出した雅艶に麻鬼が問い掛ける。そして、雅艶は重い口を開く。 一番可能性が低いと判断した現実が・・・雅艶達過激派に牙を向けるために出現した。 「あぁ・・・。奴等が来た」 「奴等!?それは、一体・・・?」 「穏健派の連中と・・・『シンボル』の変人だ!!」 「何だと!??」 麻鬼は、今度こそ驚愕の声を漏らす。 穏健派は・・・自分達過激派との全面衝突を覚悟してここに現れた。雅艶の言葉からそう察したがために。 「この“激流”を操っているのは、おそらくはあの変人の仲間・・・『シンボル』の一員だろう。それ以外にも・・・風紀委員の腕章を付けている女も居る」 「風紀委員?まさか、穏健派の連中・・・」 「いや、穏健派とて救済委員には変わりない。如何に風紀委員の中に救済委員を認める変わり者が居たとして、それは極一部だ。おそらく、あの変人の伝手か何かだろう」 「・・・確かに。他に俺達の知らない人間は居るのか!?」 「・・・!!いや、他は全員見知った連中だ。だが、これは・・・春咲!!」 「な、何よ!?」 雅艶は麻鬼との会話を中断して、躯園に声を掛ける。 “激流”が差し迫っている恐怖から足が竦んでいる林檎に身を寄せながらも、躯園は雅艶に反応する。 「あの“激流”の頂上に、お前がよく知っている女が居るぞ!!」 「私の知っている?そんな女・・・・・・!!ま、まさか・・・!!」 雅艶の言葉を受け、ある可能性に気付く躯園。 それは、彼女の頭の中から既に消えていた存在。 「あぁ、そのまさかだ!!あの頂上に・・・お前の妹、春咲桜が居る!!!」 顔が驚愕に染まる躯園。それは、林檎や雅艶以外の過激派の者達も同様に。 あれ程の地獄(せいさい)を味わいながら、それでも屈せずに自分達の前に姿を現した春咲桜の『凱旋』に。 「うおおおおおぉぉぉっっ!!!!」 「何を情けない声を挙げているのだ、農条!!だらしがないぞ!!!」 「師匠の言う通り!!これしきのことで・・・ズブズブッッ!!!」 「言ってる傍から沈んでじゃ無ぇよ、ゲコ太!!うおっ!!」 「で、でもこれは・・・。バランスが・・・!!」 「くっ・・・!!あ、あなたと言い、この“激流”と言い、“宙姫”対策で待機しているあの2人と言い、『シンボル』は化物の巣窟か何かですか!?」 「化物呼ばわりは酷いなぁ、リンちゃん。それに・・・君、あのバカ形製を忘れてるよ。そうだ、化物呼ばわりも含めて後でアホ形製にチクっとこう」 「!!そ、それはやめて下さい!!私が形製さんに潰されます!!!」 「にしても涙簾ちゃんの“コレ”・・・久し振りだなぁ。ハハッ、何だかサーフィンで波に乗ってるみたいだ」 「慣れているからって余裕ぶっこいてんじゃ無いですよー!!幾ら作戦だからって、過激過ぎじゃないですかー!?」 「物静かな娘程過激なんじゃないか?さっきのお嬢さんの行動でも思ったけど」 「!!!」 「過激・・・。ポッ!///」 「水楯さん!?別に褒めてなんかいませんからね!?」 「というか、あのことは早く忘れて下さい!!く、くそっ!な、何で私、あんなことを・・・」 「こりゃ、驚いた。お嬢さんの口から『くそっ!』なんて言葉が出るなんて。ってかあれを忘れろって言う方が無理と言うか・・・」 「も、もうー!!!不条理だー!!!!最悪だー!!!!この、バカ界刺ー!!!!」 「春咲先輩・・・逞しくなっちゃって。よーし、だったら私も!この、アホ界刺ー!!!!」 「・・・・・・何だか、形製の言葉が広まりつつある・・・。俺、悲しい」 “激流”の頂上でギャーギャー騒いでいるのは、界刺、春咲、水楯、一厘、農条、花多狩、啄、ゲコ太、仲場。 この“激流”は、水楯の能力『粘水操作』によって操作されている。1000tを軽く超える水量は、近辺にあった幾つかの屋外プールから引っこ抜いてきたもの。 水楯にとって、水とは粒(水滴)の集りという認識である。そう、それはまるで“涙”の如く時には冷たさを、時には激しさを伴って集う集合体。 故に、彼女が操る“激流”とは“激流”にあらず。その姿を見た界刺が思い付きで付けた渾名・・・“激涙の女王”を水楯は気に入っていた。 自分の名前の一部が渾名に入っていることが秘かなお気に入りポイント。但し、恥ずかしくて誰にも言ったことは無いが。 この“激涙”が響き渡らせる轟音こそが、過激派達に告げる反逆の咆哮であった。 「ぶはっ!!ハァ、ハァ。ったく余裕綽々だなぁ、界刺は。俺なんか、サーフィン代わりの小型コンテナの上に乗るのにも一苦労だってね!!」 「こんなもん慣れだ、慣れ。農条も経験を積めばこの乗り心地を楽しめると思うぜ?」 「いやっ、慣れたくなんかないってね!こんなの、今回限りで十分だ!!」 界刺達は“激涙”の上に乗るために、各々に小型コンテナの幾つかが割り当てられていた。 小型コンテナ間は『粘水操作』で固定されているのだが、さすがに水の流れは凄まじく、その上に安定して乗るというのは農条に限らず他のメンバーも四苦八苦していた。 “激涙”の支配者である水楯と、慣れているという界刺は平然と小型コンテナの上に座っている。 何故か啄だけは、農条達のように四苦八苦するどころか不安定な小型コンテナの上に仁王立ちしているが。 「さて、そろそろ向こうさんも気付いた頃合いかな・・・。花多狩姐さん!」 「!!」 界刺が花多狩に問う。 「やれるね?」 「・・・えぇ。やるわ。やり切ってみせる」 花多狩にとって凄まじい覚悟を迫られる“ソレ”を、しかし花多狩は受諾する。その目には、悲愴にも似た決意の光が宿っていた。 「ようし。それじゃあ、皆手筈通りに・・・」 「界刺さん!」 「ん?何だい、リンリン?」 作戦を開始しようとした界刺に一厘が声を掛ける。その手に握られた・・・界刺から預かった“モノ”を胸の前に置きながら。 「春咲先輩のこと・・・よろしくお願いします!!」 「一厘さん・・・」 「うん、お願いされた」 それは、一厘の心の底からの頼み。そこには、嫉妬も何も無い。ただ、純粋に目の前の男を信頼したからこその頼み。 界刺に春咲のことを頼む一厘の顔には、笑みさえ浮かんでいた。それは、彼女の確かな成長。 その一厘の変化に春咲は驚き、界刺は何時も通りの飄々とした態度で応える。 「では、皆さん・・・そして界刺さん。ご武運を・・・!!」 「ありがと、涙簾ちゃん。お前等、絶対にタイミングを外すんじゃねぇぞ!!“燃やされたスーツの敵討ち作戦”開始だぁぁ!!!!」 「「「「「「「「だからそっちいぃぃっっ!!!!????」」」」」」」」 界刺の作戦名に総出でツッコミを入れながらも、“激涙”は勢いを増して突き進んで行く。 「ど、どうするのよ!?私の『暗室移動』で、とっととここから脱出する!?」 「そ、そうだ。あたしの『音響砲弾』であの水を操っている奴に大音量をぶち込めば・・・」 「馬鹿言え!そんなことをすれば、いよいよあの“激流”は操作不能に陥って俺達を飲み込むぞ!?あの勢いだ。まず、逃げられない!!」 「そ、それじゃあ、やっぱり私の能力でさっさと移動するか、奴等の誰かをここへ転移させて・・・。 くそっ!“激流”が不規則に上下するせいで、うまく奴等の座標を計算できない・・・!!」 峠、林檎、麻鬼が怒声を交えながら話し合っているのを余所に、1人雅艶は考え込む。それは、『敵』の襲撃について。 「(あの後、春咲桜は奴等が保護していたのか・・・。そして、『シンボル』の1人であろうあの女の能力を借りてまで俺達に危害を加えようとしている。 つまり、穏健派の連中は俺達と全面衝突する覚悟で来たということ。あの少女に、あの『裏切り者』にそこまでの価値があるのか?理解できん!)」 穏健派の行動原理が読めない雅艶。だが、今はそんなことに時間を割いている余裕は無い。“激流”はいよいよ雅艶達の直近に差し迫って来た。 「峠!!ここは一先ずお前の『暗室移動』で退避する!!連中への対処はそれか・・・」 「キャッ!!?」 「うおっ!!?」 「むっ?どうした、峠!?麻鬼!?」 「空に幾つもの光源が浮かび上がった!!これは・・・」 「・・・駄目!!これだけ明るかったら『暗室移動』が発動できない!!」 「光源・・・!?くっ!!あの『シンボル』の変人の仕業か!!!」 麻鬼と峠の言葉から、光源の存在とそこに込められた意図を理解する雅艶。『敵』は暗闇では絶対的な移動能力を誇る峠の『暗室移動』を封じるつもりなのだ。 「界刺という男の仕業か!!確か光学系能力者だったか!?」 「おそらく。しかし、それ程の光源を生み出せるとは・・・。光学系と言っても既にある光を操るのでは無く、電子制御系能力者のように光を生み出すタイプなのかもしれん!!」 麻鬼の問いに己の推測を交えながら返答する雅艶。実の所、盲目の雅艶には能力で生み出された光源は全く影響が無い。『多角透視』自体も光学系能力は一切無効なのである。 無効・・・すなわち、雅艶には光学系能力で隠されている何かを見付けることができても、光学系能力自体を感知することはできないのだ。 これは、界刺が身を持って体験したことによる推測でもあり、そしてその推測は当っていた。今後この推測に基づくある作戦が行われる予定だが、今の雅艶には知る由も無い。 「ど、どうするのよ!!私の能力は発動できない!!“激流”はもう目の前!!このままじゃあ・・・」 「・・・関係無ぇよ」 「き、金属操作!?」 峠の焦り声に言葉を返したのは、今まで沈黙を守っていた金属操作。その表情には、苛立ちが如実に表れていた。 「あっちが“激流”なら・・・こっちも“激流”をぶつけてやりゃあいい!!!」 前髪で隠れている金属操作の目が見開かれる。その視界に収まる金属―大型コンテナ―が瞬く間に液状化される。高温を伴って。 自ら金属操作と名乗るこの名前は、彼の能力名でもある。厳密に言えば、人名の方は名前の通り金属操作、能力名としては『金属操作 メタルコマンド 』という風に区別しているが。 彼の視界に入る金属は、全て彼の支配化に置かれる。そして、支配下に置いた金属類を自由自在に鋳造する。これが、彼の能力『金属操作』の真髄である。 「ムシャクシャする・・・。イラつきが収まらねぇ・・・。こうなったら、あいつ等をぶっ潰して晴らしてやる!!」 液状化した大量の金属を壁状に集め、“激流”にぶつけようとする金属操作。 「待て、金属操作!!それなら、集めた金属を使って影を作ることで峠の『暗室移動』による脱・・・」 「うらああああああぁぁぁぁぁ!!!!!」 雅艶の制止はイラついている金属操作には届かない。彼の意思により発射される金属の壁が“激流”と衝突する・・・瞬間!! ザアッ!!! 「!?」 金属操作は意表を突かれる。何故なら、金属の壁と衝突する瞬間、“激流”が中程から真っ二つに裂けたからだ。 まるで、初めからそうするよう構えていたように。でなければ、あれ程の水量を瞬間的に操作することはできない。 金属操作が放った金属の壁との衝突を避け、とてつもない勢いで左右に分かれる“激流”。 プシャアアアアァァァッッッ!!!! 2つに分かれた“激涙”が、更に変化する。それは、まるで水でできた蜘蛛の巣。網目状に張り巡らされた水の道には、等間隔で小型コンテナが設置されていた。 「一厘さん!!」 「わかってますって!!水楯さんもフォローをお願いします!!」 それは、水楯と一厘の能力によってできた、空中を走る水の道。 1個に割ける重量が15kg以下に限られる一厘の『物質操作』によって操作・維持される小型コンテナを、水楯の『粘水操作』にて補助する。 水楯の『粘水操作』では、小型コンテナの正確な設置を行うことができない。そのために、一厘の『物質操作』が設置の役割を負う。 その水の道を、界刺達が駆け抜けていく。各々が小型コンテナに乗った瞬間に『物質操作』は維持できなくなるが、『粘水操作』にて極短時間だけそれを支える。 「(このために、この場所の地図が必要だったんだ)」 一厘は、今更ながら界刺が自分へ依頼して来た件の真意を理解する。水の道を敷くに最適な場所は何処か。 その時に過激派の連中が居る位置次第で最適は変わる。だから、その予測パターンを幾通りも出すために、自分の懺悔すらまともに取り合わずにあくまで地図の伝達を急かしたのか。 『俺って光を操る関係上、周囲の位置取りとかって気にするんだよねぇ』 作戦概要を説明中に界刺が放った言葉を、一厘は身を持って体感していた。だから、この体感を絶対に無駄にはしない。そう、心の中で誓った。 そう思う間に、界刺達は無事コンテナに乗り移った。作戦第1段階がもうすぐ終わる。そして、自分と水楯に割り振られたもう1つの作戦を実行に移す。 それを発動するために少し離れた位置に居る水楯が、水の道を1本の水柱へ変化させる。 「・・・・・・圧縮!!」 突如水の道に敷き詰めた、数多の小型コンテナを取り込んだ水柱が圧縮された。小型コンテナが軋み、あちこちが凹む程に。 その直後、圧縮されて球とも四角とも取れる形になった水の1点に―あえて勢いを付加して―圧縮から開放した水流を集中させる。 「・・・・・・・・・っっ!!!」 「はあああああぁぁぁっっ!!!」 水楯でもコントロールし切れない勢いで、水ごと小型コンテナが放出される時が来た。方向、角度等の微調整は一厘が整える。そして・・・“ソレ等”は解き放たれた。 continue!!
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある不幸なHappy days 選択と決着 終章 独白と幸福 『だから、たまにはアンタからも誘えっての!!』 「美琴サン、『アンタ』に戻ってます。朝っぱらからそんなに怒鳴らなくても」 『モーニングコールいらないのね「いります、ごめんなさい」よろしい』 上条はなんだかんだ言っているが、彼女との会話にニヤニヤしている。 「しかし、しかめっ面は眉間に皺できるぞ」 『うるさいっ!!『あら、御坂さん』あ、婚后さ『なにをニヤニヤと、……ああ、あの時の殿方ですね!!』ちょっ、ちょっと!!!』 増えるのは笑い皺のようだ。 ん? 婚后さん? 「……美琴様、今何時でせう??」 『えっ『あの時は』八時の十分前だけど?『苦戦しましたが』』 「なんで!!? 交代で七時にって約束だろ!!?」 『しっ『最終的には』仕方ないじゃない、ドキドキして通話ボタン押せなかったんだから『向こうから白状しましたわ』』 「美琴かわいいなぁ。……ってちがーう!! それだと遅刻しちゃうでしょオレが!!?」 『そっそれくらい『やはり』受け入れなさいよ。かっか彼氏でしょ『この婚后光子に畏れをなしたのでしょう』』 「かわいいけど、モーニングコールやめるぞ『ごめんなさい。許してください』はぁ」 不幸だ。と呟き、どたばたと準備する。 今までとは異なる朝の風景にようやく慣れてきた。 朝食を要求するインデックスも、朝食をかすめ取る猫もいない。 あの日常が楽しかったことは否定しない。 でも、 『今日はセブンスミストにいかない?』 「……またゲコ太か?」 『ブフゥ!! な、なんのことよ!!』 「また、ちょうどフェアがあるなんて知らなかった~だろ。わかったよ」 こちらの幸せをオレが選んだんだ。 これで周りが泣いたとしても、オレは、オレだけは後悔してはならない。 そして絶対に後悔なんてするわけがない。 『な~にだんまりしてんのよ?』 「……美琴」 『何よ?』 「好きだぞ」 『ふぇ? わっわ、たっ、しも、しゅしゅしゅきにょ!!』 「ははは……」 この道を美琴も歩いてくれているから。 左手薬指にある、キューピッドアローのタグリングが、一層輝いた気がした。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある不幸なHappy days
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある不幸な都市伝説 4日目 御坂編 風紀委員第177支部。 ここに婚后光子は呼び出されていた。 先程彼女はガラの悪い男達【スキルアウト】に囲まれていた。(その中の一人は、モツ鍋のナントカという異名らしい。) しかし彼女はLEVEL4の空力使い。得意の打神風で男達を吹っ飛ばしたのだ。 ちなみにモツ鍋さんは買い物帰りだったらしく、スーパーの袋を持っていた。 今頃は中に入っていたシャケの切り身が、とある不幸な少年の頭の上にでも降り注いでいる事だろう。 はたしてモツ鍋にシャケは必要なのだろうか。というか袋持ったままナンパすんなよ。 と、そんな事があったわけだ。 一応は正当防衛だが、形だけでも調書はとらなければならないためここに呼ばれたのだ。 だが婚后は別のほうに気をとられている。調書をとるはずの固法も全く手と口が動いていない。 彼女達の視線の先には三人の少女達の姿があった。 顔を真っ赤に染め上げ、なんかゴニョゴニョ言っている御坂。 鼻息を荒げながら御坂を追い詰めている初春。 そして藁人形にウニのような頭の少年の顔写真を貼り付け、釘を打ち続ける白井。 白井からは、何だか黒魔術の呪文のような物まで聞こえてくる。 やだなー怖いなー。 やめとけ白井。能力者が魔術を使うとドエライ事になるぞ。 「イイサイレージハオレンジノニオイ イイサイレージハウシガヨロコンデタベル カビタサイレージハワルイ―――」 節子…それ黒魔術の呪文やない。いいサイレージを作るための呪文や。 こんな調子なので白井は放っておこうと思う。 彼女達の話をまとめるとこうだ。 昨日、御坂はある少年とデートしたということ。 その少年は、白井の藁人形に貼ってある写真の少年だということ。 そして最後に、別れぎわ、二人は甘く切ない口づけを交わしたということだ。(多少、初春の誇張含む。) 婚后と固法の二人は、完全に御坂たちの会話に耳を傾けている。ただ風紀委員の人は働いたほうが良いと思う。 注目を浴びている事にも気が付かない三人の少女。 一人は賢く、一人は強く、一人は……素早い。ではなく、 一人は憎しみ、一人は興奮し、一人はテンパっていた。 「さあ御坂さん!白状してください!!」 初春は昔の刑事ドラマさながらに、電気スタンドを御坂に当てる。 あとはカツ丼があればカンペキだ。お袋さんも泣いていることだろう。 「だから…あれは…事故…みたいな…もにょで……」 「キィーーー!!! どんな理由であろうと! お姉様と接吻をなさるなど!! お姉様のファーストキスは黒子のモノと決まってましたのにーーー!!!」 「ふにゃ!!? せせせ接吻とか!! 生々しい事言わないでよ!! あれはホントに……ふにゃふにゃ…なんだから………」 さっきからこんな調子だ。肝心な【きになる】部分はふにゃふにゃしていて聞き取れない。 はぁ~さっぱり、さっぱりである。 ちなみに御坂がこんな状態になっても漏電しないのには理由がある。 実は初春が、小型のキャパシティダウンを使っているのだ。 効果が微弱なため、能力者が動けなくなることはないものの、能力そのものは封じる事ができるという、何とも都合のいい代物だ。 これを御坂から話を聞きだすためだけに開発したというのだから恐ろしい。 昨日、御坂が漏電しなかったのもコイツが仕掛けてあったのだろう。 初春ェ… 「もう埒があきませんね……こうなったら上条さん本人を呼んで―――」 「や! やめて初春さん!! そんなことしたらあたしアレになっちゃう!!!」 そのアレになる所が見たいのだが……ていうかアレって何? 「じゃあちゃんと説明してくださいよ! ナニをどうしてキスしたんですか!? どんな感触でした!? 味は!? とにかく事細かくお願いします!!」 「そ、そんなの…分かんないもん……突然だったし……」 「ダメです!! ちゃんと思い出してください!! ファーストキスですよ!?ファーストキス!! 人生で一度きりなんですよ!?」 今日の初春は迫力がある。今なら覇気すら引き出せそうだ。 「だっ! だから、よく覚えてないんだって!! アイツが急に倒れこんできて…そしたらその…あの……ぁぅ……」 「………はぁ~…じゃあ『なんでキスしたのか』はそれでいいです。 それで? 御坂さんはどう思ったんですか?」 「えっ!!? ど、ど、どうって!?」 「感想ですよ感想!! 男の人と初めてキスして、何とも思わないわけじゃないでしょう!?」 「え、えっと………」 御坂が何かを言いかけた次の瞬間、突然電話が鳴り響いた。 一般人からの通報だ。どうやらパンツ一丁で走り回っている男がいるらしい。 「白井さん! 今すぐ現場!!」 「なぜわたくしが!!?」 「白井さんは現場担当なはずです!! 私はデスクワーク派ですからここから動けません!! あー悔しい!!」 「キィーーー白々しい!! 全く、この季節に裸になるなどどこのバカですの!? ここは魔界の村じゃありませんわよ!!!」 そう言い残し、白井はテレポートして行った。 白井が消えるのを確認し、初春は再びキャパシティダウンのスイッチを入れる。 その直後に初春は話を戻した。お前も風紀委員なんだから働けよ。 「さあ、感想をどうぞ!!」 しかし、さっきは流れで余計なことを言いそうになっていた御坂も、ゴタゴタしている間に落ち着きを取り戻しつつあった。 「か、感想もなにも……何とも、な、な、ないわよ!!」 御坂はまたツンデレモードに突入してしまった。 これはこれでカワイイのだが、めんどくさいったらありゃしない。 初春は少し大声を張って詰め寄ろうとする。 「いい加減にしてくださいな!!」 だが声を荒げたのは初春ではなく、先程から黙って聞いていた婚后だった。 「わたくしの知る御坂さんはもっと堂々としてますわよ!!」 「そうよ御坂さん! 自分の気持ちに正直になって!!」 婚后に続いて固法も参戦した。 いや、何度か言ってるけど仕事しろ。風紀委員。 強力な味方をつけニヤリとする初春。 「もう逃げられませんよ!! キスされてどう思ったのか、聞かせてもらいます!!」 「そ……そのことは…もう、ね?」 「いーえ諦めません! 諦めたらそこで試合終了ですから!!」 流石の御坂も根負けしたようだ。 ポツポツと自分の気持ちを語りだした。 「バスケが……したいです………」 そうじゃねーよ。お前はどこぞの3Pシューターか。 「そ、そりゃね? あたしだってアイツの事、す…嫌いってわけじゃないし…… 突然だったからびっくりしたけど、うれ…イヤなわけじゃなかったっていうか……」 初春たちはニマニマしながら聞いている。 世の中こんなにオモシロカワイイ生き物がいたのか。 だが御坂は少しずつ冷静になっていた。おかげで疑問がよぎるほどの余裕ができていたのだ。 「…あれっ? そういえばどうして初春さんは昨日の事知ってたの?」 思わぬ反撃に初春は固まった。辺りに不穏な空気が流れる。 「……初春さん…?」 「な、なんでしょう?」 「説明、してくれるわよね?」 いつのまにか立場が逆転していた。 助け舟を期待し、初春はチラリと後ろを見るが、婚后も固法もあさっての方向を見ている。 どうやら見捨てられたらしい。 説明を求められても困る。 正直に「盗聴していた」などと言おうものなら、今より立場が危うくなるだろう。 なので、とりあえず誤魔化すことにした。 「き、禁則事項です!」 誤魔化しきれてねーよ。お前はどこぞの未来人か。 御坂は一人で街をブラブラしている。 結局あの後、初春からは情報を聞き出せなかった。 だがまぁ、こちらとしても上条への想いがバレなかっただけ良しとしよう。 ……バレなかったと思っているのは御坂本人だけなのだが。 (これからどうしよう……暇つぶしに本屋でも―――!!?) 本屋に行こうとした瞬間、御坂は「あきらかに行き倒れてます」と言わんばかりの少女を発見する。 「ちょ、ちょっと!! 大丈夫ですか!!? …ってあなたは!!!」 近づいて見ると、その少女に見覚えがあった。 日本人らしい長い黒髪と、薄幸そうだが端正な顔立ち。 四魂のかけらを集めていてもおかしくないほど巫女装束の似合いそうなその少女は、 以前、酔っ払った上条にくっついていた少女の一人だ。 「怪我はないみたいだけど…とにかく病院に電話を!!」 御坂がケータイを手に取ると、少女は声を出した。 「お…おなかすいた………がくっ。」 がくっ、はこちらである。 (たしかあのシスターもしょっちゅうお腹空かせてたわよね…… なんでアイツの周りはハラペコキャラが多いわけ!? いつから学園都市はグルメ時代に突入したのよ!!!) 「ありがとう。お礼を言う。」 「……別にいいですよ。」 街によくあるハンバーガーショップ。 彼女達のテーブルには大量のハンバーガーが置かれていた。I m lovin it. 彼女の名前は姫神秋沙。聞けば上条のクラスメイトだという。 お腹が空いたがお金を持っていなかったため、どうしようかと考えていたところ、 見覚えのある顔【みさか】が通ったので、イチかバチか倒れてみたのだとか。 「まさか。本当に引っかかるとは思わなかった。」 「…奢ってもらって他に言う事はないんですか……っていうかそんなに食べられるの!!?」 「お礼ならさっき言った。 それに残ればテイクアウトすればいい。友達に大食らいがいるから。」 「それってあのちっこいシスターですよね?」 「知ってるの?……そうか。あなたも上条君にくっついてたっけ。」 「くっつい!!? あ、あたしは別にあれですよ!? アイツとはただの…知り合いで……」 「……ひょっとしてあなたも。上条君に命懸けで助けられたクチ?」 「……じゃあやっぱりあなたも………」 「上条君のアレはもう病気みたいなもの。仕方がない。」 「その度に女の子の仲良くなるのはどうかと思いますけど……」 「確かにそれは腹立つ。けどそれも仕方がない。上条君かっこいいから。」 「!!! ひ、姫神さんはその、ア、ア、アイツのことが、すすす好き、なんですか!!?」 「好き。もちろん異性として。」 御坂は衝撃を受けた。それは正に、つうこんのいちげきだ。 姫神は上条への想いをあっさり認めたのだ。 それは自分にはできないことだった。 「も、もしかして、告白とかって………?」 「それはまだ。今言ったところで上条君は冗談にしか受け取らないから。」 つまり、タイミングが来ればいつでも勝負する覚悟があるということだ。 「怖く…ないんですか? その、フラレたりとか……」 「もちろん怖い。上条君。とにかくモテるから。」 本人はその自覚がゼロなのだが。 「私よりも魅力的な女性が沢山いるのは分かってる。それでも私は…… 誰にも負けるつもりはない。 もちろん。あなたにも。」 「んなっ!!!?」 「隠してるつもりかもしれないけど。見てれば分かる。」 「あああああたしは!!!! アイツの事なんでナントモ!!!!」 「…そう。それならそれでいい。 自分の気持ちもロクに言えないような臆病な人は。ハナから相手じゃないから。」 姫神の言葉が御坂の胸に突き刺さる。 昨日、妹にも同じようなことを言われたからだ。 ―――あたしは――― ―身体検査では“無能力者”って判定なんだけど― ―相手になってやるよ― ―誰が助けたかなんてどうでもいい事だろ― ―心配したに決まってんだろ― ―きっとお前は誇るべきなんだと思う― ―御坂美琴と彼女の周りの世界を守る― ―お前に怪我なんてして欲しくないんだよ― ―だからテメェも死ぬんじゃねぇぞ― ―そういうことを言うために、記憶がなくなるまで体を張ったんじゃないと思うんだよ― フラッシュバックするように、次々と思い出していく上条との記憶。 そしてあのとき気付いた自分の気持ち。 「あ、あた、し、も……す………き……ア、アイ、ツのこと、が………… アイツのことが!!! 好き!!!!!」 真っ赤になりながらも、自分の気持ちを曝け出した御坂。 姫神は新たな強力なライバルの出現に、うっすら笑みを浮かべた。 御坂の告白から十数分。 姫神はテーブルの上にあった、カエル型のケータイを手に取る。 「えっ、ちょっ、何してるんですか!? それ、あたしのケータイなんですけど……」 「アドレス交換。こうしないとメールが送れない。」 「メ、メール?」 「お礼。ちゃんとしたのはまだだったから。 上条君のことが好きな人なら。これはきっと喜ぶ。」 そう言われながら御坂はケータイを返してもらった。 その直後に、さっそく写メールが送られてきた。 それは弁当を食べている上条や、机に突っ伏して昼寝する上条。 友人と取っ組み合いをする上条等、上条の日常生活を写し撮った写真であった。 「えっ! な、なにこれ!!?」 「クラスメイトの特権。近くにいないとこういう写真は撮れない。 会員になれば。もっとすごいのも見れる。」 「か、会員って!!?」 「私。上条当麻ファンクラブ。『そげ部』の会長。もちろん本人非公式。」 「ぇぇええ~~~!!!?」 なかなかの衝撃の事実である。 けどそんな「ヒゲ部」みたいな名前でいいのか? 「これでも。会員は一万人以上いる。」 「いちまんにん……」 聞き覚えのある数字だ。おそらく大半はあの子達だろう。 それを差し引いても、31人以上はいる計算だが。 「……それじゃあ。そろそろ帰ろうと思う。 結局。ハンバーガー食べきれなかった。」 「それが普通ですよ。あのちっこいのが異常なんです。」 「まぁ。そのちっこいのにお土産持って行くおかげで。上条君にも会いに行けるわけだけど。」 「…それが狙いですか………」 「さっきも言ったはず。あなたにも負けないって。」 そう言うと、姫神は自分の財布を取り出し、奢ってもらった分の料金を御坂に渡した。 「お、お金持ってるんじゃないですか!!」 「あれは嘘。あなたがどんな人か。確かめるために騙してみた。ドッキリ大成功。」 「ドグラ星の王子みたいなことしないでくださいよ!!」 そんなことを言いながら二人はハンバーガーショップを後にした。 御坂はいつもより晴れやかな表情をしていた。 開き直って、気持ちをぶちまけたことで吹っ切れたのだろう。 ちなみにこの日、上条当麻ファンクラブ「そげ部」(本人非公式)に、会員が一人増えたのは言うまでもないだろう。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある不幸な都市伝説
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前ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある少年の帰還記念祭 番外編 その2『出し物大会!』 これは3~6話の間に起きた話です。 え?詳しくいつ起きた出来事かって?そんなこと作者が知るわけないじゃないですか。 美琴「出し物大会?」 パーティが始まって数時間後のこと、美琴は自分の席でほおづえをつきながらそう言った。 それに答えるのはやたらとテンションの高い初春と佐天。 初春「ええそうです!!なんでも参加者が少し少ないから今参加者を募集してるとこなんですよ。」 佐天「それでですね、御坂さんも参加してみたらどうかなー、って思って。」 美琴「ええ!?なんで私が!?それに出し物って言っても特に何もすることないわよ。何も準備してきてないし……」 出し物があるとは知っていたが、自分が参加するなんて全く頭になかったので準備してきていないのは当然だ。 すると美琴の隣の席の黒子が 黒子「何を言ってますの。お姉様にはバイオリンという特技があるじゃありませんの。」 美琴「あ、バイオリンね…ってそのバイオリンがないっつーの。」 湾内「ありますよ?」 美琴「へ?」 泡浮「先度出し物大会の受付の前を通ったのですが、いろいろと貸し出してくれるみたいなんです。その中にバイオリンがあったんですよ。」 どれだけ準備がいいんだパーティ主催側の人間よ、と美琴は心の中で激しくつっこんだ。 しかしバイオリンが準備されていたとしても、今日は何の準備もしていないので弾く気は一切ない。 美琴「……そ、そうなんだ。でもみんなの前でバイオリンを弾くのは恥ずかしいっていうか……」 固法「でもこれって上条さんにいいところを見せるチャンスじゃない?ほら、上条さんはすぐ側で見てるわけだし。」 美琴「ッ!!」 固法の言葉に美琴は反応した。ついでにいうと黒いオーラを出した黒子も。 面白いくらいわかりやすいので友人sの視線が美琴に集中する、が美琴は気づかない。 美琴(アイツにいいとこ……) 確かに上条は舞台上で出し物をする人の近くのイスに座り、行われる出し物を見ていた。 現在はクラスメイトが何かをしているようで、上条も楽しそうな笑顔をみせていた。 とりあえず参加すれば上条の笑顔が見れるかも、と思い美琴のやる気はUP。 その上で上条にいいところを見せることでどうなるか、さらに美琴は考えてみる。 バイオリンを弾いて上条にいいところを見せる。 ↓ 上条笑顔+普段とのギャップに上条が驚く。 ↓ 『へー、御坂ってあんな特技あるんだな…好きになった。結婚しよう。』 美琴「ッ!!!!!」 春上「?どうしたのー?」 婚后「御坂さん大丈夫ですの?急に顔が赤くなったみたいですが…」 美琴「ななな、なんでもない!ほんとなんでもないから!!」 妄想が暴走した美琴の顔は真っ赤。どう見てもなんでもないことはない。 不信に思ったのか黒子は目を細め 黒子「お姉様……?何をお考えになっていらっしゃるので?まさかあの類人猿にいいとk」 美琴「そんなわけないでしょ!? 私は別にそんなこと……で、でもまあ、せっかくのアイツのパーティなんだしバイオリンくらい弾こうかなー……って…」 指をもじもじさせながら頬を赤く染め、舞台の上にいる上条をチラッと見る。 その行動は恋する乙女そのものだ。 黒子「……とりあえずあの類人猿を葬っておきましょうか…」 固法「白井さん、先輩命令よ。とりあえずで人を葬るのは止めなさい。」 初春「いやいやとりあえずじゃなくても人を葬るのはダメですよ!?」 ◇ ◇ ◇ 建宮の『ギャグ100連発~言ったギャグを実戦~』や絹旗の『オススメB級映画紹介』、さらに木山春美が舞台上で脱ぎだしたりと 本当にろくでもない出し物が続く中、ついに美琴の出番がやってきた。 土御門「では出し物大会もラスト!大トリはこの方だにゃー!!!」 なぜか知らないがトリを任させれることになっていた美琴は土御門の声と同時に美琴は舞台中央へ足を進めるのだが… 美琴「と、ととと常盤台中学2にぇん!み、みしゃか美琴です!!」 緊張はMAX、自己紹介を噛みまくった上、貸してもらったバイオリンを手に舞台上で固まっていた。 美琴(あ、アイツにいいとこ見せるんだから……いいとこ…いいとこ……) 遠くから見ても全身ガッチガチだとわかるくらい美琴の動きは硬い。 上条にいいところを見せようという想いが強すぎてバイオリンを弾くどころではなかった。 土御門「あの~……そろそろ弾いてほしいんだにゃー…」 あまりに長い時間美琴が固まっているので司会の土御門だけでなく、会場内からもざわざわと声が聞こえてきていた。 友人たちの声も聞こえるような気がするがそれでもダメだ。焦れば焦るほど手が震える。 美琴(早く弾くなきゃ…!でも、でも手が思うように動かない―――――) 上条「御坂!!」 美琴「ッ!」 諦めかけた時だった、美琴はその声に思わず振り返る。 ガッチガチに固まっていたはずだが、上条の声にだけはしっかりと耳に届き、体も反応することができた。 上条「落ち着け御坂!!大丈夫だ、お前ならできる!」 そう言って上条は美琴に笑いかける。 と同時に女子陣から激しい嫉妬の目が美琴を襲うが今は全く気にならなかった。 美琴(あ……弾ける…かも…いや、弾ける!!) 緊張は解け体が動く、美琴は盛夏祭の時同様美しい音を奏でるためバイオリンを弾き始める――――― ◇ ◇ ◇ 美琴「ふぅ……緊張した~……」 再び舞台裏、演奏を終えた美琴はバイオリンを傷つけないようそっとケースに入れ近くにあったイスに座る。 美琴(アイツのおかげね…盛夏祭の時に続いてまた助けてもらっちゃった……でも演奏は上手くできたし、いいとこ見せれたわよね!!) 最初固まってしまったことはともかく、『上条にいいところを見せる』という目的は達成できた。 なんだか達成感を感じ小さくガッツポーズをした。 が、握られていた拳はすぐに開かれる。 美琴「…まあ鈍感なアイツのことだからなんとも思ってないんだろうな…はぁ……ま、少しでもいい印象を持ってもらえたらいいわね。 さて、みんな待ってるだろうしそろそろ戻ろうかな…」 舞台裏は基本進入禁止なので友人たちはここへ来ることができない。 そのためここに長くいるといつまでも待たせてしまうのでさっさと自分の席に戻ろうと立ち上がった。 上条「あ、いたいた。おーい御坂!」 美琴「ッ!」 立ち上がり一歩目を踏み出そうとした絶妙なタイミングで上条が舞台から舞台裏に戻って来て美琴の前までやってきた。 この場で話すことになると思っていなかった美琴は 美琴「な、なな何…?」 少し挙動不審で上条に聞き返した。 だが上条はその様子を気にすることなく 上条「何って…バイオリンの演奏すっごい良かったよ!」 美琴「え!?ほ、ほんと!?」 美琴は驚いた。 まさか上条がほめてくれるなどと思っていなかったからだ。 上条「ああ、全部の出し物の中で1番すごかった!それにわざわざ俺のために弾いてくれたなんて…上条さんは感動で泣きそうですよ……」 手を顔に当て、言葉通り目にうっすら涙を浮かべる上条。 しかし美琴は少しの間きょとんとしていたのち 美琴「………ええ!?アンタのために弾いた!?」 美琴の大声が舞台裏に響いた。 ぶっちゃけ美琴としては『上条にいいところを見せる』という考えと同時に『少しでも上条がこのパーティを楽しめるために、上条のためにバイオリンを弾く。』という考えもあったので上条の言うことは合っている。 しかし美琴はそれを誰にも言った覚えはないのでなぜ上条が知っているのかわからない。 美琴が困惑した表情を見せていると上条が 上条「え?俺のためってのは…違うのか……?」 美琴「え、い、いや、違わない、ような……その…うん……違わない……」 美琴はもじもじしながら小さな声でボソッとそう言った。 恥ずかしいからか上条と目を合わせられていない。 上条は美琴がバイオリンを自分のために弾いてくれたということが本当だとわかり少し嬉しそうだ。 上条「じゃあ俺は今からすることあるからもう行かなきゃ。 バイオリン弾いてくれてほんとありがとな、それにいつもと違う御坂が見られてよかったよ。」 笑顔でそう言って上条は早足で舞台裏から会場へと出て行った。 そして舞台裏に1人残された美琴は 美琴「えへ…えへへー……だ、大成功よね…アイツ喜んでくれてたし、いいとこ見せれたし…えへへへへ………」 『結婚しよう』まではいかなったが上条に好印象を与えることができたことは大健闘。 美琴のにやけ顔はしばらく戻らなかった。 ちなみに…… 舞夏「いやー、2人をからかうために『御坂は上条当麻のためにバイオリンを弾いたんだぞー』って適当に言ったんだけど…… 御坂は本当に上条当麻のために弾いてたんだなー。」 土御門「まあ俺はある程度予想できてたけどにゃー。で、舞夏。今の2人の様子ちゃんと撮れたか?」 舞夏「ああもちろんだーあにきー。いいかんじにデレてる御坂が撮れたなー。もちろん喜んでる上条当麻もなー。」 美琴と上条の様子は舞夏によってバッチリ撮影されていた。 このとき撮られた映像がのちのホテルでの尋問でみんなに公開されようとは誰も予想できなかっただろう。 前ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある少年の帰還記念祭
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある二人は反逆者 第1章 ③罪を背負いし者と最後の妹 一方通行は死を覚悟していた。 (例え、俺がどンなに腐っていてもよォ。 誰かを助けようと言い出す事すら馬鹿馬鹿しく思われるほどの、どうしよォもねェ人間のクズだったとしてもさァ) 目の前の1万人以上殺してきた少女と同じ顔をした幼い少女…打ち止めを蝕むウィルスを駆除する治療は間も無く終わる。 しかしその前に天井亜雄の放った銃弾が自分の頭を撃ち抜くだろう。 まるで走馬灯のように自分の過去が頭の中を巡りぬける。 初めて妹達を殺した時は本当に殺すつもりなど無かった。 ただ去ろうとした自分に00001号が発砲して言うなれば自害したようなものだった。 だがその瞬間、一方通行は自分の中の何かが壊れたような気がした。 誰も傷つけないために目指した無敵。 しかし無敵になるためには2万人の命を奪わなければならない。 絶対的な矛盾が一方通行に妹達を殺すことを踏み止まらせていた。 しかし皮肉にも妹達の一人の行動が一方通行の中の何かを徹底的に壊してしまったのだった。 (このガキは本当ォは俺が殺したくなかったなンてほざきやがった。 確かに俺は殺すことに戸惑いはあったかもしれねェ。 でもそれならあの三下が妹達の一人を助けに来た段階で、実験を止めなきゃなンなかったはずだァ。 だが俺は実験を止めるどころか止めに入った三下を殺そォとした。 いくらこのガキが俺の性善説を説こォとも、俺の性根が悪であることには間違いねェ。 でもよォ…) 間近に迫ってくる弾丸を肌で感じながら一方通行は神に祈るように願う。 (それでもこのガキが犠牲になっていい訳がねェ。 だからもし糞ったれなこの世の中に神様がいるってェなら… ほんの少しでいいから時間を、俺に時間をくれェ!!) そして一方通行の願いに応えるように奇跡がその場に舞い降りる。 治療を終えるより早く一方通行の頭を撃ち抜くはずだった弾丸が一方通行を襲うことはなかった。 そして打ち止めの治療を終え一方通行の意識が現実に戻った時、 一方通行の目に飛び込んできたのは実験を止めた上条が天井亜雄を殴り飛ばす姿だった。 辺りを見渡すと美琴がこちらに向けて手を伸ばしているのが分かる。 (そォか、オリジナルが磁力を使って弾丸を止めたのか) 皮肉なものだ、一番自分を恨んでいるであろう相手に命を救われた。 そして美琴の後ろには芳川桔梗の姿が見える。 自分のやるべきことは終わった。 しかしその場を去ろうとする一方通行のことを上条が呼び止めた。 「待てよ、逃げてるんじゃねえぞ」 「俺が逃げるだとォ? おい三下、てめェ誰に向かって口を利ィてるのか分かってンのかァ?」 「助けた女の子に顔も見せずに立ち去ろうとする気障野郎だろ?」 「…」 ふざけた奴だと一方通行は思う。 あれだけの死闘を演じておきながら、この男は自分に臆することなく話しかけてくる。 もう一回戦ったら絶対に自分が勝つと一方通行はそう思っていたが、 いざ上条を前にするとこの男に自分は勝つことは出来ない、そう思わせる何かがあった。 「何で今になってお前が妹達の一人を助けようとしたのかは分からねえ。 でもお前は身を呈してあの子を救おうとした。 そうさせるだけの何かがあの子との間であったんじゃねえか?」 「だったらどォだっていうンだよ!? 今更アイツらに頭を下げて許しを請えってェのか!? 1万人以上殺した俺がどンな面して…」 「甘えるなよ。 どんな理由があったにせよ、お前は1万人の命を奪ったんだ。 そういう意味では実験の発端になったDNAマップを提供した美琴にも罪はあるかもしれない。 でもお前の罪と美琴の罪は比較にならない、このことは言わなくても分かるな?」 「…」 「美琴はその罪を背負って前に進もうとしている。 そしてお前も妹達に対する贖罪のために命を懸けようとした、違うか?」 「…そンなに立派なもンじゃねェ。 あのガキはこんなクズな俺に…アイツらを虐殺した俺に笑顔を向けてくれた。 それで柄にも無くあのガキを助けてェと思っちまった。 俺には誰かを助けるよォな資格なンてねェのによォ」 「誰かを助けるのに資格なんて関係ねえよ。 例えお前にどんな罪があろうとも誰かを助けちゃいけない理由になんてならねえ」 「…」 「お前は一生を懸けてその罪を償っていくんだ。 そしてその罪から目を逸らしちゃいけないと俺は思う。 俺の言ってることはお前にとって残酷なことだっていうことは分かってる。 でも罪から逃げないためにも自分が犠牲にしたもの、そして守ったものをきちんと正面から見据えろ。 一人でお前がやったことを背負えとは言わない、俺も実験を止めた責任は果たすつもりだ。 だからお前に支えが必要になった時は、俺も一緒に背負ってやるから」 目の前の少年が何を言っているか一方通行は理解できない。 何故この少年が自分の罪を一緒に背負う必要がある? でも目の前の少年からは自分が今まで散々見てきた打算や策略めいたものは感じない。 それはあの少女が自分に向けてくれた笑顔と同じ害意のない、何処か心を落ち着かせる表情だった。 そして少年は一方通行に向かって左手を差し出す。 自分がその手を掴んでいいかは分からない。 でもそこには自分が本当に欲しかったもの、無敵なんて力ではない何かが詰まっている気がした。 一方通行の他者との関わり合いに反射は既に必要なくなっていた。 一方通行は上条に並んで芳川が乗ってきた車に詰まれた培養器の中にいる打ち止めを見つめていた。 意識が戻ったのか打ち止めは上条と一方通行を見ると二人に微笑みかける。 そして上条の横には美琴が並んで立っていた。 「…オリジナル」 「…なに?」 「今更謝って済む問題じゃねェことは分かってる。 だが、本当にすまなかっ…」 しかし一方通行が謝罪の言葉を口にする前に美琴がそれを遮った。 「謝る相手が違うでしょ。 そして本当に私達が謝らなきゃいけない相手はもうこの世界にいない」 「…」 「私達の罪はそれこそ一生を以って償っても許されないものだと思う。 でも私は自分の罪から逃げることはしない、罪を背負って生きていく。 だからアンタも謝って楽になろうなんて考えてるんじゃないわよ」 美琴は隣に立つ上条の手を握りながら己の罪から逃げないことを、もう一人の加害者に向かって宣言する。 その表情には自信の罪に対する後悔、そして一方通行への複雑な感情など様々なものが蠢いていた。 そしてそんな美琴の横顔を見ながら上条は美琴のこれからを支えることを改めて誓う。 それと同様に上条はもう一人の罪を背負った少年の横顔を眺める。 言葉を発しない一方通行の表情から感情を読み取ることは出来なかった。 ただ何か一方通行の中で変わったことことだけは感じ取れる。 それが一方通行が元々持ち合わせていたものなのか、新しく一方通行の中に芽生えたものなのかは分からない。 しかし一方通行が同じ過ちを二度と繰り返さないことだけは理解出来た。 二人が真の意味で和解することはないと上条は思う。 それでも二人が見据える未来が同じ方向に向かっていることを上条は願うのだった。 そして長かった夏休みが明け二学期が始まる。 しかし二学期の初日から上条たちを待っていたのは、とんでもない大事件なのだった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある二人は反逆者
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~~~side 入場~~~ 「…で?これは一体何の騒ぎなんだ?」 昼下がり、場所は路地裏の一角。 俺達チャイルドデバッカーが拠点とする廃墟の中で、男が三人並んで何かを眺めているという謎の状況下で しばらくの間、静観を決め込んでいた粉原が疑問を投げかけてくる。 その言葉を受けて視線を前方へ戻す。目の前に広がる光景は、まさしく惨状と言う言葉がよく似合うだろう。 「おいおい、今日が何の日か知らないのか?男なら待ち遠しくて堪らない日だってのに」 ともかく、粉原の疑問に応えておく事にしよう。今日は二月十四日、説明するまでも無く今日はバレンタインだ。 男三人が並んで眺めている先では、我らがチャイルドデバッカーが誇る女神達がてんやわんやと騒いでいる。 「そんな事は分かってる。確かに今日は『バレンタインデー』だが、それがどうしてこんな騒ぎになっているのかと聞いているんだ」 何処から調達したのか、俺達の拠点の一つである廃墟、もとい室内拠点には簡易的なキッチンが用意されている。 今は女の子達によって占拠されているそのキッチンは、通常なら四方、吉永の二人によって使用されるのみなのだが 今日に限っては四方っちと吉永の二人は他のメンバーに調理の手順をレクチャーするのみに留まり、キッチンを使用しているのは他の女子メンバー達だけだ。 「…大体は富士見のせいだよ。最も、普段の様子を見ていれば予測できた事だろうけど」 先ほどから隣でパソコンを弄りつつ無言を貫いていた樹堅が声をあげる。 どうやら何らかの作業にひと段落ついたらしく、ノートパソコンを畳みつつこちらに視線を向けている。 で、先ほどから俺達が述べている騒ぎとは、吉永に教えを受けていた富士見がチョコを爆発させたという物である。 なぜチョコを湯煎するだけの作業で爆発が起こるのかは甚だ疑問だが、富士見の不器用さは悪い意味で評判なので 驚きよりも呆れと「やっぱりな」という気持ちが大きい。 「吉永も大変だなぁ。四方っちも自分で教えてあげれば良い物を」 富士見が四方っちにぞっこんなのは明らかで、本人も気付いてるんだろうから相手をしてあげればいいのにと思わなくもない。 最も、四方っちを好いている奴は多いし、あんまり一人を特別扱いするのもアレなのかも知れない。瞳ちゃんは別として。 「馬鹿か。それこそ無駄に張り切った富士見が大惨事を起こすのが目に見えているだろう」 こいつは何を言ってるんだ、といった顔で粉原が反論してくる。 言われて想像してみる。…うん、これは、駄目だ。どう考えても酷い未来しか見えない。 吉永には悪いが、富士見へのレクチャーを回避した四方っちの判断は正しかったと言わざるを得ない。 そして、話題の要となっている四方っちはといえば…江向っちに教えているようだ。 もともと江向っちは料理とかも少しはするようだから、不慣れながらも着々と作業をこなしている。 「あぁ、確かに…。江向っちはそこまで不器用って訳でも無いし、教える人のチョイスも考えてあるようで抜け目ないな」 というか、むしろ四方っちが富士見に教えなかったのはこの惨事を予想してたからなんじゃあ… そう思うとやはり不憫なのは富士見の世話を押し付けられた吉永の様だ。相変わらず苦労人なようで同情を禁じ得ない。 「それにしても罪木は一人で作っているのか。あの子こそ教えが必要かと思うが…」 と、樹堅の言葉を聞いて視線をそちらに向ける。 そちらでは瞳ちゃんが一人でチョコを作っていた。ここから見る限りではかなり手際は良さそうだ。 料理や洗濯といった基本的な家事スキルは四方っちから教わっているのであろう事は容易に予想がつく。 樹堅の心配するような発言に対して、何時もの無表情を崩さないまま粉原が弁明を入れる。 「ひ…罪木については、一人でも作る事が出来るらしいから常に付いておく必要は無い、と四方に聞いた」 発言内容自体は予想通りだったが他の部分に引っかかりを覚える。 ひ…?ああ、もしかして粉原も普段は名前で呼んでるのかね? とっさに苗字で呼んだのは、俺達の前では言いにくかったからなのかも知れない。 しかし、そんな風に周りからの目を気にしている様な粉原はなんとなく新鮮だ。 瞳ちゃんと仲が良いのを必死に隠そうとしている。 そう考えると急に粉原が微笑ましく見えてくるのは不思議なことじゃないだろう。 気を取り直し、瞳ちゃんに視線を戻す。 今に限った話じゃあ無いが、チョコを一生懸命に作っている瞳ちゃんを見ていると色々と思うのだ。 四方っちの教育が良いのかこんな裏世界に身を置きながらも瞳ちゃんは純粋に育っているように見える。 「へぇ…、あの歳で大したもんだ。あと数年すればさぞかし良い女になるだろうなぁ」 瞳ちゃんの将来を考え、ついつい笑顔が浮かぶ。見た目の可愛さは今の時点で折り紙つきだ。 この様子なら俺の妹にも劣らない位になるかも…いや、それは流石に言いすぎか…いやしかし 隣の芝は青く見えるって言うしな。きっとそんな補正が掛かっているから瞳ちゃんがああも素敵な女の子に見えるのだろう。 こういう時は記憶の中で愛しの妹を思い浮かべるんだ…やっぱり妹が最高だな! だが待て、それで良いのか?それだけで終わらせても良いのか? そうだ。妹と瞳ちゃん、二人が並んで居る所を思い浮かべるんだ…どうだ?最高と至高が合わさり最強に見え… 「入場…年下好きもそこまでいくと流石に引くぞ…」 と、そこまで考えた所で樹堅の声で意識が現実に引き戻される。 気付けば隣にいた樹堅から非難の目を向けられている。おいおい、別に俺は年下好きなだけでロリコンじゃあねぇぞ! シスコンなのは認めるが、決してロリコンじゃないはず。瞳ちゃんへのこの気持ちもきっとその類の好意の筈だ、きっと。 「手を出そうなんか考えんじゃねぇぞ。少しは考えろ」 続いて粉原からも冷たい目線。というか、なんか顔が恐いぞ…。すげぇ怒ってないかこいつ。 目線が当社比125%くらいに鋭く冷たい気がする。冷たさ&鋭さのダブルコンボにさしもの俺もたじたじである。 むしろ物理的に痛い…っていうかホントに何か刺さってるし!?粉原!こんな事で能力使ってんじゃねぇ! 「痛い痛い!冗談だって!そんな目で見るなよ二人とも!…ってか、粉原は何でそこまで怒ってんだ!?」 気になった事は質問してみるに限る。前々から粉原と瞳ちゃんが二人でいる所を目撃している人が多かったし この堅物かつ、仲間思いとは言いがたいようなこの男も瞳ちゃんの事は憎からず思っているのかも知れない。 「お、怒ってなんかねぇよ!妙な言いがかりをつけるなっての!」 何とも分かり易い反応というか何というか。 普段の無表情は見る影も無く崩れ、冷や汗を流しながら否定する姿は何とも微笑ましい。 何だか、粉原ってただのツンデレな気がしてきたのは俺だけだろうか。 樹堅を横目に見ると頷いている。同じ事を思っていたようだ。 「………………………」スタスタ と、そんな下らない話と思考を続けていると不意に渦中の瞳ちゃんがこちらへ歩いてくるのが目に入った。 今日も今日とて何時もの制服風ファッションに身を包み、四方っちの趣味だというネクタイを締めている。 少し前より伸びたままになっている灰色の髪を揺らしながらこちらへとゆっくり歩いてくる様子はやはり今日も愛らしい。 良く見ると手にはトレイを持っているようだが、何をしに来たんだろう? 「おや?どうしたの、瞳ちゃん」 気になった事はすぐさま聞くに限るというモットーに従い、質問を投げかけた後に後悔。 質問したはいいけど四方っちが居ないと通訳が出来なかった… ともかく口に出してしまったからには仕方ないと、返ってくるリアクションをどうにか正しく察しようと構える。 「………………………(試作品。出来たから…)」 問いかけを受け瞳ちゃんは手に持ったトレイを掲げる。その中身を除き見ると完成品らしきチョコが並んでいた。 その意図を推察しようとしていると、樹堅が察したように声を上げる。 「ん…?もしかして味見か?」 「………………………」コクコク 樹堅の推測を受けて瞳ちゃんは小さく二回頷く。 どうやら樹堅の言っている事は確からしい。味見役を頼まれるというのは実にありがたい限りですぐさまにでも頂きたいところだけど… ふと隣から視線を感じて出しかけた手を止める。 隣を見るとなにやら粉原が渋い顔をしていたからだ。相変わらず良く分からん奴だが… 「そんなもん、俺たちに持ってこなくたってあいつらに食わせれば…」 そんな粉原の発言とどこか恥ずかしそうな表情で何となく理解できた。 あぁ、なるほど。なんとなく、チョコを貰うというのがむず痒かったと見える。 いくら素っ気無い言葉を投げかけても、そんな様子では悪い印象を受けようが無い。どうみても照れ隠しだ。 「………………………」ジー そんな言葉を受けた瞳ちゃんは粉原を見つめている。相も変わらず表情に乏しいジト目だが、この場合は何となく意味が読み取れる。 この目は恐らく、つっけんどんな態度をとる粉原を軽く非難している目だろう。 割と普段からジト目気味の瞳ちゃんだが、普段以上にジトッとしたこの目はこれはこれでそそる物がある。 …我ながら小学生位の女の子に対する評価としてはどうかと思うけれども。 「ぐっ…分かった。分かったからそんな目で見るな」 青く澄んだその瞳に見つめられ、慌てて粉原が目を逸らす。 どうでもいいが瞳ちゃんの瞳に見つめられる、っていうのは我ながら面白い気がした。あ、そうでもない? 何にせよその視線の意味を正しく察したのか、折れてチョコを手に取る粉原。しかし、この様子を見ていると… 口では何だかんだと言いつつも、小さな子どもには甘い近所の兄ちゃんオーラに溢れている。 「おやぁ、これは…」 「ふっ…。流石の粉原も子どもには甘い様だな」 二人揃ってニヤニヤと笑みを浮かべる。鏡を見ればさぞかし気持ち悪い顔をした二人が映っているだろう。 こういう時、樹堅とは気が合う。普段そっけない粉原を弄れるチャンスと思いお互い数々の修羅場を抜けてきた相棒の様な心持ちで 粉原を弄り回していると、ついに我慢の限界が来たのか粉原が怒鳴り声を上げる。 「ニヤニヤしてんじゃねぇ!馬鹿にしてんのか!」 目を吊り上げ怒鳴り散らす姿は普段の彼から考えれば恐ろしい物なのかもしれないが、 今に限っては全く持って恐くも何とも無い。これはこちらの心境の差なのだろうか? 「べっつにー。普段ピリピリしてる粉原さんがぁ~、妙に優しいからさぁ~」 「こちらとしては色々と想像してみてしまうわけさ」 散々粉原イジリを堪能した後、満足のいった俺達はお互いに親指をサムズアップする。樹堅、グッジョブ! そんなこんなでチームメイトと新たな友情を築いていた俺達を横目に粉原が呆れたかの様に嘆息する。 「てめぇら…」 最早、怒る気も失せたと言わんばかりですがそんな終わり方では味気ない。 そんな期待を込めて樹堅に視線を送る。流石は同士、全てを分かった顔で粉原へと向かい合う。 樹堅は『俺のターンはまだ終わってないぜ』と言わんばかりの表情でこう付け加えた。 「というか、粉原。俺の能力を忘れてないか?お前の脳内に『罪木 瞳』で検索をかければお前の考えている事などお見通しだ」 樹堅の能力は『知りたいことのキーワードを基に相手の脳内を検索する』という能力だ。 それを用いれば隠し事など不可能である。最も、キーワードを決めなければならないのでそこまで万能ではないけれど。 その補足を受けてその意味を正しく察し、粉原はさぁっと顔を青くする。 樹堅が何を考えていたかは知らないが見られて困る事を考えていたのは確実なようだ。 「なっ!てめぇ、何を見やがった!」 顔を青くしたと思えば、次は顔を真っ赤にして怒鳴る粉原。色々と忙しい奴だな。 だがそんな粉原に止めを刺さんと眼鏡を光らせ、不適な笑みを浮かべる。 「ふっふっふっ…。そりゃあ、お前、心の中では罪木の事を可愛くて妹のように思っ「ぶっ殺す!」 止めとばかりに粉原の脳内にかけた検索結果を口に出そうとする樹堅だが、最後まで言い切る事は無かった。 粉原はとっさに能力を発動させると生成した赤い剣を樹堅に向け飛ばす。その凶器が眉間に迫るが――― 「入場!助けろ!」「任せとけ!『前線案内』」シュン そうは問屋が卸さないぜ!俺は速やかに樹堅に触れると前方48.27m地点へと転移させる。 路地裏に無造作に置かれた鉄製の看板の裏にピンポイントに転移された樹堅は軽やかに身を隠しやり過ごす。 攻撃が不発に終わった事に対して怒りで身を震わせながら粉原が叫び散らす。 「逃げんなてめぇら!なんでそんな息ぴったりなんだよ!訳わかんねぇよ、お前ら!」 言いながらも転移した先の樹堅へ攻撃を仕掛けているが看板に阻まれうまく当たっていない。 最も、当たったとしても痛いで済む程度に手加減されているのは見てるだけで分かるから止めはしない。 と、まぁそんな風にこちらはこちらで男同士で馬鹿騒ぎをしていた訳だ。 いやはや、こんな組織にいても中々に青春を謳歌できている。他の組織がどうなのかは知らないけど。 「………………………」クスクス そんな様子を眺めながらクスクス笑う瞳ちゃんの横に人影。 その人影も同様に粉原と樹堅の様子を見て面白がっているようだった。 「くっくっくっ。粉原は相変わらず素直じゃないよね」 とはいえ、こんな時に近づいてきて笑っているような奴は一人しか居ないけど。 その人影はいつもの通りのネコミミパーカーを着込み、備え付けられたポケットに両手を突っ込んでいる。 そのフードの奥にはやはりこれまた猫の耳の様な癖っ毛を仕舞い込んでいるのだろう。 灰色の瞳を何時にも増して爛々と輝かせ騒ぎを見つめるその様子は意外ながらも歳相応の少女らしさを感じさせる。 本人は気付いていない様だけど頬にチョコレートが少し付いている。 何を考えているのか分からないミステリアスさと何だかんだと女の子らしさの両方を兼ね備えた不思議なリーダーである。 という訳で、いつの間にかこちらへ来ていた四方っちが真似の出来ない笑い方で声を上げる。 その声を聞いた粉原は再び顔面蒼白になりながら勢い良く振り返る。 「やっちまった」を表情で描いた様な顔が非常に面白い。 気を取り直したのか表情を無理やり戻し、引き攣った怒り顔で四方っちに詰めより 「お前は何時の間に沸いてきた…!っていうか、どこから聞いてやがった!?」 と食ってかかるが、彼女はまるで意に介さないかの様に身を翻し、笑顔を浮かべながら返答する。 「え、最初からだけど?能力使えば遠くの会話でも聞こえるからね。それで、瞳のチョコはおいしかったかな?」 翻した体を追従する様に黒い髪が揺れる。両手を後ろに組みながら笑いかける姿はとても絵になるが、 そのサディスティックな笑顔は改めた方が良いと思うんだ、女の子として。 ところで、違うところで既に語られた事実かも知れないが風に乗った会話を聞くことが出来るらしい四方っち。 相変わらずの能力の無駄遣いと、無駄に洗練された制御精度に脱帽。 我らがリーダー四方視歩(16)は今や地獄耳を超える猫耳と持て囃されるプライバシーブレイカーである。嘘だけど。 「……………(絶句)」 予断だが粉原は基本的に四方っちの事を苦手としているようで、彼女を前にすると大抵の場合怒るか呆れるかの二択の表情をしている。 どうやらこの独特な性格に対しての対処法が無いらしく、偶に瞳ちゃんに愚痴っているとかいないとか。 瞳ちゃんに愚痴ったらそのまま四方っちに一直線に伝わる事が分かってるんだろうか、あの男。 「くっくっくっ。心配しなくとも、君をロリコンだとかは思っていないよ」 おや、流石に弄り過ぎた思ったのかフォローを入れている様だ。 ここは俺も乗っかってこの場を収めに掛かるのが賢明だろう。このままではむしろこちらにも危害が飛んできそうだし。 「おお、さすが四方っち。フォローも忘れないとは頼れr」 ―――そうは問屋が卸さなかった。というか四方っちが卸さなかった。 再び口を三日月の様に歪めると粉原に近寄り、耳元で囁く様に… 「瞳に良くしてくれている様で何よりだよ、お・に・い・ちゃ・ん?」 あっ…(察し) 「あ゛あ゛あ゛ぁ゛!てめぇら、馬鹿かぁーーー!」 さ、更に煽りにいったぁーーー!? 粉原は顔どころか全身を真っ赤にして怒っている様だ。…いやむしろ赤いのは顔や体じゃなくて能力じゃねーかこれ!? 余談だが粉原の能力は「赤色念動(レッドキネシス)」と言って、念動力に物理的な硬さを持たせて自由に操る力だ。 何故かは知らないが、発動した念動力には赤い色が付いているという特徴がある。 なぜこんな説明を今しているかといえば怒りのあまりに操る念動力が体をオーラのように纏っていて まるで見た目はスーパー○イヤ人の様なサムシングと化しており一見すると何の能力なのか分からないから…ってこっち見た! ともかく、早急に退避しなければ…はっ!足が動かない!? 良く見ると足元には赤い念動力が纏わり付いていた。怒っている割に冷静だな、おい! 「良いから死ねっ!」 万事休すとはこの事か。何らかの救いが無い物かと祈りつつ、諦めと期待のブレンドな気分で目を閉じ――― 「ぎゃぁぁぁー!?」「あべしぶっ!?」 ―――やっぱり現実は非情だった!錐揉みに吹っ飛びながら、視界の端に同じ様に飛ばされる樹堅の姿を捉える。 あんなに離れててもやはり逃げられなかったか…南無三。 「おっと、危ない危ない」「……………」 薄れていく意識の中、ちゃっかりと瞳ちゃんを抱えて避けている四方っちが見えた… 自分で煽っておいて俺達を見捨てたとか、最初からこうなるのわかっててからかっただろとか。 「くくっ、和三盆程甘いね。私を捉えたいなら本気で危害を加えるくらいの気概で来ないと」 そしてこの期に及んでまだ煽りますか。むしろそこまでやって笑えるアンタの精神が理解しがたいぜ… と、そこまで考えた所で俺の意識は消失した。 とある猫娘達の日常 5話 修復者達のとあるバレンタイン***** ~~~side 焔~~~ 話は遡って昨日の昼の事。 私、富士見焔は重大な事実に気が付いたの。今日の日付を確認し皆の前で発言するの! だんっ!っと机に勢い良く手を叩きつけながら本日の目的を声に出す。 「皆、チョコを作るの!」 三言で発言終了。でもこれだけで十分意味が伝わると思っての結果だったんだけど… 何だかあんまりよろしくない反応なの。少し遅れて香ちゃんが金色のショートヘアを揺らしながら小首を傾げ 「……………ええっと」 と苦笑いを浮かべている。素早く反応してリアクションしてくれるのは良いの。 でも出来ればもうちょっと気の利いたコメントをして欲しかったの。 続けて発言したのは、腰まで届く様な可憐な茶髪を揺らし小首を傾げるのかと思えば 首を曲げこちらを睨みつけるかのような目線でこちらを見ている芙由子さんなの。 「……………は?」 …胡乱っていうのが良く似合う目つきというか、女の子としてどうなのそれ…。 ともかく芙由子さんの反応は、言ってる事は分かるけど何故そんな事を言っているのか分からない、という感じなの。 分かりやすく言うと「何いってんだコイツ」状態。幾らなんでも私の扱いが悪いってレベルじゃないの! 気を取り直し視線を滑らせると、視歩ちゃんの膝の上といういつもの定位置に座っている瞳ちゃんが目に入る。 正直な話、そのポジションは羨ましいけど瞳ちゃんなら仕方が無いの。血の涙を流して耐えるの。 「……………………」 そんなうらやまけしからん瞳ちゃんはと言えば、いつも通りのジトッとした目をこちらに向けて首を傾げている。 眉の角度の変化を見る限り、その表情は『疑問』だろうか?むむむ。私にはまだ瞳ちゃん語の翻訳は無理そうなの… どこかに指南書でも売ってないかなぁ、視歩ちゃんに今度それとなく執筆をお願いするとして。 「へぇ、チョコか。焔も色気づく歳になったって事かい?」 最後に、皆のリアクションを見届けた後に視歩ちゃんが声をあげるの。 ちゃんとした質問で返してくれるのは流石だけどやっぱりその発言は気が利いてないよ!? 色気づいたとか言うとまるで私が男の子にチョコをあげようとしてるみたいなの!? これじゃあ周りの皆に誤解されてちゃうの!早く否定しないと~! 「ち、違うの!私のは視歩ちゃんに渡すんだから!」 慌てて否定した後、ゆっくりと周りの皆の顔を眺めると… (いや、そんなの分かってるから) という言外の意思をビンビンと感じるの。 私がサトリなのか皆がサトラレなのかそれとも他の何かなのか。 「そ、そうだったの。皆にはそんな事言わなくても分かってるよね!私の愛はストレートなの!」 えっへんと胸を張る。直前のやり取りなんか忘れたの。この図々しくも愛嬌のある振る舞いが私のチャームポイント! 絶賛自己PR&自画自賛とかいう最悪なコラボレーションだけどやはりこれも真スルー。 「っていうか、何で急にそんな事言い出したのよ?」 色んな思考を勝手に頭の中で飛び交わせて一人遊びしていた私を見かねたのか芙由子さんんが疑問を投げかけてくる。 フォローだったであろうその言葉は有難いけどやはり目つきが胡乱…。そんなに私が嫌いなの!? 「明日の日付を見てみるの!」 そう言って鞄からカレンダーを取り出し、芙由子さんに突きつける。 このカレンダーは私の必需品だ。一年の中に溢れてる記念日を忘れてしまわないように、一日一日を楽しむために。 まぁ、それだけじゃなくて理由は色々あるけどね。 目の前に突きつけられたカレンダーに対して、いや近過ぎて逆に見えないからと言いつつ少し身を引いた目を凝らしている。 一日の終わりにその日の日付にチェックを付けているので今日が何日かは一目瞭然だ。 芙由子さんもそのチェックを頼りにカレンダーの日付を目で追っていき、ある地点で動きを止める。 「二月十四日…。あぁ、なるほど」 合点がいった様に頷く芙由子さん。もちろんその日付には大きくハートマークを書き込んでいる。 なぜなら明日は女の子にとって大事な日!期待を込めた目線で芙由子さんを見つめ返す。 さぁ、明日が何の日なのかその口で答えるの! 「聖バレンティヌスが処刑された日ね」 そこなの!?そりゃあ確かにバレンタインデーの由来として有力な説だって事はもちろん知ってるけども。 だからってそこでそれを言われると最早どう反論して良いのやら。芙由子さんのボケなのか本気なのか微妙だし、 下手に突っ込むと数倍の報復を受けかねないし、かといって気の利いた返答を用意できている訳でもなくて、たじたじ… 何も言葉を発せない私を見る芙由子さんの目が段々鋭くなってくる。 まずいの、このままじゃあ痛い展開の予感…! 「そっ、そういえば、明日はバレンタインでしたね~…?」 そんな絶体絶命の状況に助け舟を出してくれるなんて、やっぱり香ちゃん出来る子! 助かったと言わんばかりに香ちゃんの発言に便乗する事にする。 「そ、そうだよ!明日はバレンタインだよ!」 たどたどしくなってしまったのはご愛嬌という事で…。 香ちゃんはこちらを見ながら微笑んでいる。相変わらず年下とは思えない包容力のある笑顔なの。 ともかく、いつの間にか表情を戻した芙由子さんがふぅ、と息をつきながら思い出したかのように呟く。 「そういえばそんな日だったわね…」 っていうかホントにバレンタインデーって事を忘れてたんだろうか? そう思うと浮かんでくる感情は怒りや悲しみと言うよりは哀れみに近い感情だった。 男性恐怖症の芙由子さんには縁の無いイベントだったんだろうなぁ… なんて、聞かれれば間違いなくお仕置き物な事を思いつつもさっきの仕返しを目論んで口を開いた 「そういえば、って…。幾らなんでも芙由子さん女捨て過ぎなの…」 他の記念日はともかく、バレンタインを忘れるのは女としてどうかと思うの。 やった!このセリフは我ながら上出来なの!流石の芙由子さんもこれにはたじたじの筈… そんな期待を込めながら芙由子さんの顔を覗き込み、その瞬間思考がフリーズする。 「何かいった?」ニコッ ―――強者は大抵の場合、常に笑顔である。そんな言葉を思い出した。 「…ごめんなさいなの」 私は何も言ってない。言ってないの。命が惜しいから言ってないのー。 脳裏にこの前のお仕置きが過ぎる。あんな目に遭うのはもう二度とごめんなの。 「あ、あはは…。実際、私も忘れてましたし…」 とっさにフォローを入れてくれる香ちゃんはやっぱり良い子なの! 香ちゃんは最近入ったばかりのメンバーだけれど、その優しくて一生懸命な性格のおかげですぐにメンバーにも受け入れられていた。 私は受け入れられるのに随分時間が掛かったし、ちょっと羨ましいかな~なんてね。 でも仕方がない事ではあるかな。私は元々ここの皆からしたら敵でしか無かったんだし。 そんな事を考えながら顔を見つめ続けていたせいか、いつの間にか香ちゃんが顔に疑問の表情を浮かべている。 私はそれを笑って誤魔化しつつ顔を逸らした。昔の事思い出すと後ろ向きになっちゃって良くないの。気をつけないと~。 「それで?明日はバレンタインだから、皆でチョコを作りたいって訳かい?」 こちらの会話がひと段落ついたのを見計らって視歩ちゃんが本題に入る。 このままだと話が進まないところだったから助かったの。 視歩ちゃんの言うとおり、私はデバッカーの皆にチョコを作ってあげたかったのだ。しかし… 「そうなの!でも、私チョコの作り方分からないから誰かに教えてもらわないと…」 そう私はチョコの作り方を知らないのだ。誰かに教えてもらう必要があるので、皆に助けを求めた次第である。 そもそも私は料理とかした事ないし、お菓子とかもっと無理なの。 でも視歩ちゃんがお菓子作れるのは知ってるし、うまくいけば視歩ちゃんに手取り足取り教えてもらえるかも…うふふ どちらかと言うとそっちの方が真の目的だったり。我ながら策士なの! 「…………………………(この中でお菓子作りが出来るのは…)」 瞳ちゃんが辺りを見渡すような仕草をする。なんか私のほうに意味ありげな視線を送ってきた気がするけど… はっ!?まさか私の完璧な策が読まれてるんじゃあ…。いや、それは無いの。 瞳ちゃんが読めるのは悪い感情だけ。私の純粋な愛なら読まれる心配なんてないの! 瞳ちゃんの目が(いや、欲に塗れまくってるから。ある意味、純粋な欲の塊だよお前)って感じだけど気のせいだよね。 「うん。私と芙由子が適任かな。瞳も作れるだろうけど、人に教えるのはまだ早いだろうし」 やっぱり視歩ちゃんは作れるみたいなの。瞳ちゃんはまだ人に教えられる様な感じでは無いみたいだから自動的に視歩ちゃんが… …あれ?芙由子さんも作れるの?何だかすごく嫌な予感がするんだけど… まさか視歩ちゃん以外に料理できる人がいるなんて!?私の完璧な作戦にまさかの穴があったの! 「ごめんなさい…。私もお菓子作れません…」 「なら、香にも教えてあげないとね」 あれぇ!?いつの間にか香ちゃんが視歩ちゃんのレクチャーを受ける事になってるの!? 「あ、ありがとうございます!」 香ちゃんはと言えば、とても嬉しそうに笑顔を浮かべながら頷いている。 その様子は凄まじくかわいいけど今はそんな事を気にしている場合では無いの! 「あれ、視歩は香に教えるの?だったら…」 あ、あぁ!このままじゃあ嫌な予感が的中しちゃうのぉ! 私も視歩ちゃんに教わる様にしなきゃこんな事言い出した意味がぁ… 「わ、私も視歩ちゃんに教えてもr」 「アンタは、私が教えてあげるわ。視歩と一緒にやらせたらまともにやらなさそうだし」 そ、そんなぁ~!どうにかしてチェンジを…! 「ち、チェンジ「断るわ」 私の訴えは言い切る前に遮られた。現実は非情である。 「あう…あう…」グスッ 神様ぁ…今ばかりは貴方を恨むの…。幾らなんでもこの仕打ちは酷いの! 何故か芙由子さんはこんな感じで私に冷たい。私何も悪い事してないよね?ね? あれ、何だか誰も同意してくれなさそうな気がする…。 しかし、そこは流石の視歩ちゃん。きっちりとフォローを入れてくれたの。 私のほうの近づいてきたと思えば私の頭に手を置いて、優しく撫でながら 「大丈夫、焔が作ったチョコ、私は楽しみにしてるから。頑張ってみてよ」 と微笑みかけてくる。きゅんっ、ってきたの!相変わらず罪作り過ぎてますます惚れ惚れしてくるの~! とはいえこんな性格のせいで恋敵多いけどね!しかも同性ばっかり! でも今はこの至福の瞬間を噛み締めないと…。 頭にやられた手の感覚へ神経を研ぎ澄ます。触れられた所から温もりが広がる。 あぅぅ…。私、生きてきて良かったのぉ…。 そして、すっと手が戻される。名残惜しかったけど、出来るだけ表情に出さないように努力する。 視歩ちゃんはそんな私の微妙な顔を見て、さらに笑みを深くしながら元の位置に戻っていった。 「視歩ちゃぁん…。分かったの!絶対においしいチョコを作って見せるの!」 やっぱり視歩ちゃんは優しいの!ここまでされちゃあ頑張るしかないの! そんな私をどこか微笑ましそうに眺めていた芙由子さんが、不意にかぶりを振って表情を戻すと 腰に手を当て、視歩ちゃんに向き合う。少し躊躇してから口を開いて 「…はぁ。あのねぇ、視歩。あんたがそうやって甘やかすから焔がこうなっちゃったんでしょうが」 と、少しばかりの非難と大目の呆れを込めた声色で糾弾する。 何だかんだと一緒に居る時間も多いから分かるけれど、こんな感じで話す芙由子さんは大抵の場合その相手の身を案じている。 前々から「視歩は他人に甘すぎる」と言った内容の愚痴は聞いていたのでなおさら分かりやすかった。 「え、そうかい?甘やかしてるつもりは無かったんだけど…」 私としては、もっと甘やかしてくれても良いんだけど…芙由子さんは更に呆れの割合を深くした声で 「無自覚かよ…。そろそろ普段の振る舞いを改めた方が良いんじゃない?この女たらし」 と視歩ちゃんの額を人差し指でつつく。 視歩ちゃんはと言えば、額を突かれた事よりも女たらしと言われた事の方が答えているようで顔を顰めている。 どうでも良い話だが、普段余裕をもって物事に接している視歩ちゃんが動揺するときは大抵は芙由子さんか香ちゃんが絡んでいる。 香ちゃんは理由わかり易いけどね。毒舌だし。 それはそうと、視歩ちゃんと芙由子さんは傍目から見てても仲が良い。 何を言うにも遠慮の要らない友人って感じだろうか?そんな関係性のせいか悪口を言い合ってる姿が多いけれどそこに嫌な感じは全くしない。 聞く話によれば芙由子さんと視歩ちゃんは同じ施設に居たらしく、昔からお互いの顔を知っていたとか。 要するに、幼馴染。俗に言えば朝に部屋まで起こしに来てくれる人、みたいな?それは冗談として。 「うぐっ!…女にむかって女たらしはないだろう、いくらなんでも」 つつかれた額を手で摩りながら非難を浴びせる。 この前聞いた親父ギャグ発言と言い、今回と言い視歩ちゃんの怒るラインは何だか微妙な所にあるような気がする。 「じゃあ聞くけど、あんた男より女に言い寄られるほうが多いでしょうが」 額にやられた手も意に介さず、再び額をトントンと突きながら言葉を重ねてゆく。 そんな彼女の追及に反論が無いらしく、困ったような顔を浮かべて目線を逸らしている。 「それは…まぁ、否定はしないけどさ…」 頬をぽりぽりと掻きながらすっと目を伏せる。 確かに、視歩ちゃんが男の子に言い寄られてる姿はあまり見ない。 顔自体はかわいいからナンパされてる事はあるんだけど、中身を知ってる人にはモテないの。 「あ、そうだ。良い事考えた」 ふと、芙由子さんが額をつついていた手を止め、ニヤリと笑う。 視歩ちゃんの全身を舐め回すような視線で見つめると、ふん。やっぱりね、と呟く。 何となく言いたい事は分かったの。今見てたのは視歩ちゃんの服を見てたんだね。 いっつも似たようなパーカー着てるし、女の子らしい格好すればきっと似合うはずなの!って事だよね、きっと。 「なにその笑顔。嫌な予感しかしないんだけど」 いつの間にか私も似たような笑みを浮かべていたらしく、視歩ちゃんは私と芙由子さんの顔を見比べて苦笑いを浮かべる。 額に冷や汗が浮かんでいるところを見ると、こちらの意図はだいたい伝わっているようだ。 更に追い討ちをかける様に芙由子さんが、満面の笑みを浮かべながら視歩ちゃんの手を取り 「視歩、今度一緒に買い物に行きましょう?あんたに似合う可愛い服を見繕ってあげるから」 と、視歩ちゃんを誘う。この二人は普段から一緒に買い物などに出かけているようだけど、 いつも以上ににこやかな笑顔を浮かべながら詰め寄ってくる芙由子さんの様子に、いつものお誘いとは違う事を察した様で 軽く身を引きながら露骨に嫌な顔をしている。 「えぇ…。ただ私を着せ替え人形にしたいだけだろう、それ?」 半眼になりながら芙由子さんをにらめ付けて、非難の混じった問いかけを送るが、それをまるで意に介さない様子で 「ええ。そうよ」 笑顔のまま言い切る芙由子さん。すごく楽しんでるなぁ、この人。 そんな様子に軽く面食らった様に、なおかつ多分の呆れを込めた表情で 「ノータイムで言い切ったよこの子」 と溜息混じりに突っ込みを入れている。傍から見てればホントに言い感じのコンビだよね、この二人。 こういう二人の姿は見てて微笑ましくなってくる。芙由子さんは恐いけれど良い人だから、これからも彼女の支えになっていて欲しい。 と、そこで前に香ちゃんから聞かれたことを思い出す。 その時の質問の内容は「視歩ちゃんが他の人と仲良くしてるのを見てどう思うか」という物だった。 香ちゃんは視歩ちゃんが私や他の人と仲良くしてるのを見ると、モヤモヤした気分になってしまうのだと言っていた。 その気持ちは分かる。でも、知識としての『嫉妬』が分かるというだけで私自身にはその感情は無い。 どうにも私は他人に対しての嫉妬の感情が欠落しているのだとか。子どもの頃に散々説明されたっけ。 私の願いは視歩ちゃんの一番になる事であって唯一になる事ではないのだ。 だから、むしろ私は誰かが常に彼女の隣にいる事を望もう。歪んだ感情と言われても構わないから。 すこし柄にも無い事を考え過ぎたかな?気を取り直さなくちゃ! 「……………………(野豚ならぬ野良猫をプロデュース…これは売れる予感…!)」グッ 「野良猫言うな。わかったわかった、着せ替え人形にでも何でもなってあげるよ」 意識を目の前の会話に引き戻すと、視歩ちゃんが瞳ちゃんに突っ込みを入れてるところだった。 瞳ちゃんが何を言ったのかは分からないけど、あのしてやったりな表情を見るに何か面白い事を言ってからかったのだろう。 あいかわらず瞳ちゃんは表情だけで場を和ませる天才なの。この組織のマスコットだよね! 「やった!瞳ちゃん、貴女も当日連れて行くから準備しといてね」 いっている傍から芙由子さんも瞳ちゃんにお誘いをかけているようだ。 この前の事(第一話参照)があってから、芙由子さんも瞳ちゃんを可愛がるようになっていた。 何だか、日を追うごとに虜を増やしていってる気がするんだけど…。瞳ちゃん、恐ろしい子…! 「……………………」コクコク そんな瞳ちゃんは、芙由子さんの誘いに笑顔で頷いている。そんな笑顔を向けられた芙由子さんが 「ぐふっ…」とか言いながら胸を押さえてのけぞっているけど、仕方がないの。私に向けられた物では無いのにきゅんときてしまったの。 「瞳ちゃん、かわいいの~…。はっ!?でもひとまず今はチョコの話なの!」 危ない危ない。危うく忘れてしまうところだったの。瞳ちゃんの魔性の笑顔には気をつけないと… 私の言葉を聞いて、皆が「ああ、そんな話してたね」と思い出したような反応を示す。 このままじゃあ流されてしまうところだったの。 そして、芙由子さんが腕を組みなおしながら 「まぁ、良いんじゃない?チョコくらいなら、そんなに手間もかからないし…」 と私の意見に賛同してくれる。料理も得意な芙由子さんの言う事だから、きっと間違いはないだろうけど… チョコ作るのって手間のかかる作業だって思っていたけど、そうじゃないんだ。手間は掛からない、か。 でも、それが本当なら私も頑張れば作れるかなぁ! 「……………………(今日材料を買って、明日作って渡せば良いと思う)」 瞳ちゃんが視歩ちゃんに何かを提案しているようだ。それに頷いて 「そうだね。渡す相手を考えれば、作ったのをそのまま渡せば良いだろうさ」 と言った。どうやら瞳ちゃんは、作る日程について提案してくれたらしい。 視歩ちゃんに言ってる内容からして、今から買いに行って明日作ったのをそのまま渡せば良い、ってことだろう。 「あれ?誰にあげるか決めてるんですか?」 話がとんとんと進んでいる事を疑問に思ったのか、香ちゃんがそんな質問を投げかける。 それに、香ちゃんからすればもう一つ理由があるかも。 基本優しい彼女だけど、チョコをあげようとは思わない人が少なくとも一人思いつくし その事を考えての質問かもしれない。 その質問に、何を当たり前のことを、と言わんばかりに視歩ちゃんが笑いながら答える。 「デバッカーのメンバーくらいには作ってやるべきだろう?義理チョコでも男連中に作ってあげようって事」 それは賛成なの。デバッカーの仲間にはお世話になってるし、 チョコに感謝の気持ちを込めて、私も皆にプレゼントしたいの! でも浮かない顔をしている人が一人。言うまでも無く香ちゃんだ。 やっぱりあの人に渡すのを躊躇しているのだろうか? 「こ、粉原さんにもあげるんですか?私、あんまりあの人好きじゃないんですけど…」 案の定だった。相変わらずだなぁ、香ちゃん。この話の時ばかりは少し別人に見えてくるほどに その表情には黒い物が混じっている。 粉原さんに対しては無意識ではなく、意識的に毒を吐くみたいだし、とことん嫌いなんだろうなぁ。 「ふむ…。ま、馬が合わないのは仕方ないかな、お互いの性格的に」 改めて説明すると、香ちゃんは粉原さんが嫌いみたいなの。主に考え方の違いが大きいの。 確かにちょっと無愛想だし、冷たいかも知れないけどあの人も悪い人じゃ無いんだけどなぁ。 特に瞳ちゃんを相手にしてる時とかは、割と優しいように見えるの。 「……………………(別に、義理なのだから愛を込める必要は無い)」 逆に粉原さんにも懐いている様子の瞳ちゃんだが、香ちゃんの言葉は特に気にしていない模様。 この前、粉原さんの事をお兄ちゃんと呼んでみようとしてたらしい事を視歩ちゃんから聞いて 実行の際には是非呼んで欲しいと頼み込んでおいた。その時が楽しみである。 「渡すのだって、一人一人渡してたら手間だし、焔にまとめて渡させればいいでしょ」 私はそれでも構わないの。そっちの方が手っ取り早いし。 でもそう考えると、結構たくさんのチョコが必要そうなの。たくさん買い込まないとね。 「それなら、まぁ…」 しぶしぶ、といった具合で納得する香ちゃん。その内仲良くなってくれれば良いけど、ちょっと難しそうなの。 ともかく、日が暮れない内に買い物に出発しないと! 「決まったのなら早く買いに行くの!」 立ち上がって右手で視歩ちゃんを、左手で芙由子さんを掴んで催促する。 腕を引かれた二人はそれでも微かに笑いながら 「はいはい。それじゃあ、買いに行こうか」 「仕方ないわねぇ…。ま、付き合ってあげるわ」 と、言ってくれる。視歩ちゃんはもちろん大好きだけど、芙由子さんのこともやっぱり大好きなの! 二人とも、敵だった私にここまでしてくれる、とても素敵な人。もちろん二人以外の皆も。 昔、他人に嫉妬しないお前はおかしい。そんな風に言われた事があった。 その時はとても悲しかったけど、今はそうは思わない。 私が他人に嫉妬しない理由は今は分かりきってるの。だって私は――― だって私は、誰の人生も羨ましくないの。今が、すっごく幸せだから! だから私に嫉妬の感情はいらないの。その分、人を人一倍愛せればそれが一番なの。 ~~~side 粉原~~~ 時は戻って――― 「という事があったのさ。それで、急にチョコを作ることになったって訳」 どうしてこうなった、という入場のセリフに対して掻い摘んだ説明を終えた四方が肩を竦めながら言う。 登場人物の物真似を交えた四方の説明は非常に分かりやすかったが、富士見のテンションを真似る四方は酷くシュールだった。 「へー。富士見がねぇ…。まぁ、そういうイベント好きそうだけど」 四方から話を聞いた入場が納得したかの様に声をあげる。 その様子を低い視線から眺めていたが、なんだか無性に空しくなってきたので体を起こす。 「……………………(すごく、張り切ってた)」 瞳が倒れこんだ俺を覗き込むように見ていたが、体を起こした俺の頭を避けながら入場へ視線を向ける。 何らかの意図を表しているのだろうがやはり何が言いたいのか分からない。 ともかく、地面と親交を深める羽目になっている俺をスルーしつつ話を続けるこいつらに苦言を呈さなければ…。 「げふっ…。くっそ、平然としやがって」 精々忌々しく言い放ったつもりだったが苦しげになってしまったのはご愛嬌。 というか人を痛めつけておいてその事に触れないのは酷くないか、こいつら。 なぜ俺がこんな所で転がっていたかと言うと… 怒りに任せて入場と樹堅を伸した後に、残る四方をもとっちめようと挑んだ俺だったが、 結局、激しい戦闘の末に返り討ちに遭い今に至る。 忌々しげな視線を送ると、薄く微笑みながら 「流石にまだ一対一じゃ負けてあげられないな。こっちにもリーダーとしての矜持があるし」 そんな事を言いながら、クツクツと真似の出来ない笑い声をあげる。 こうしていると何処にでもいそうな女子高生にしか見えないが、むしろそのせいで負けたという事実が重く感じる。 ただでさえこんな華奢な女に負ける時点で屈辱なのに、なによりも… 「ちっ。ったく、分かっていた事ではあるけど能力じゃなくて肉弾戦で負けると最悪の気分だな…」 そう。こんな気分なのは能力の優劣で負けたからでは無く、肉弾戦を含めた戦闘で負けたからである。 こいつを唯の女だと見るのは愚行だと分かってはいるが、結構へこむ物だ。 「くっくっくっ。流石に年季が違うさ。私が何時から格闘訓練してきたと思ってる?」 経験の差、か。これでもコイツは俺より年上なんだよな…。 最も、高校生が主な構成員の中ではコイツが年長者と言うわけでは無いが。 というか、中学生なのって俺と江向だけだったな。ちっ、早く大人になりたいもんだ。 「前から思っていたが、粉原の剣技と四方の戦い方には共通点を感じるな」 俺達の戦いを見ていた樹堅の発言に興味を惹かれる。 確かに俺の戦い方と四方の戦い方には共通点が多い。その理由もある程度予想は付いているが… 「それはそうだろうさ。私がアドバイスした事をしっかりと活かしてくれている様だしね」 だよな。こいつは時々俺の鍛錬に場に現れては言葉をぽつぽつと落としていく。 その言葉は気に食わんが的確で、何度も参考にさせてもらっている。…不本意だがな。 「うん?四方っち、剣なんか使わないだろうに」 最もな疑問だ。それは俺も常々気になっていたが、直接聞いた事は無かった。 「まぁ、粉原と似た能力の奴といつも戦ってるしね。あいつの戦い方を少し教えただけさ」 そう言われて脳裏を過ぎるのは赤い剣閃と、狂気じみた目をした女の姿。 直接手を合わせた事は無いが、傍から見るだけでも印象に残っていたあの女。 「『甲蟲部隊』のあの女か…。直接戦った事はねぇが、あいつそんなにヤベェのか?」 「連中とかち合う度に戦って、それでも未だに一度も決着が付いてないんだろ?」 それを聞いてやはりかと思う。本気の殺し合いでは無いのだろうがそれでもこの化物と互角なのは恐ろしい話だ。 四方と奴の関係が、一言で表す事が出来ない程度に複雑である事は知っている。 それ故に少しばかり複雑な気分だ。甲蟲部隊との戦闘の度に要注意人物である血晶赤を確実に抑えている四方の働きに文句は無い。 それに加え、ピンチに陥ったメンバーの救援もこなしているのだから大した物だ。 だが、それならばさっさと血晶赤を仲間に引き入れれば良いと思ってしまうのは悪い事だろうか。 俺から見ている限り、四方自信が望めばあの女はこちら側に付きそうにも思えるのだ。 「……………………(かれこれ数年の付き合い)」 「あいつも能力で作った剣を使って戦う時があるからね。その時のを参考に、と思ってさ」 身を以って受けた技だけあってか印象が強いんだよ、と笑う。 くつくつと喉を鳴らす笑い方は相変わらず真似が出来ない。 「悔しいが、的確なアドバイスだったさ。お前に教わるのは癪だが、強くなる為なら我慢してやる」 これは本心だ。四方のアドバイスは確かに的確で、それを取り入れた結果は非常に良いものとなった。 最も、剣技に慣れている筈の俺ですら一瞬理解できない様な高等技術ではあったのだが。 「くっくっくっ。そういう事なら遠慮なく鍛えてあげるさ」 だがひとまずはこの化物を打倒することが目標だ。 コイツを乗り越えて初めて俺は仮初の満足を手に入れることができる。その為にこれからも俺はコイツへ挑み続けるのだ。 …実のところを言うと、ただ単に俺はこいつの隣に立ちたいのだ。率いられるのではなく、並び立つ。 人を頼ろうとしないこの化物じみた少女に真の意味で『仲間』だと認められなくては俺のプライドが許さないのだ。 こんなこと、誰にも話せやしないがな。 「……………………(大丈夫?)」ヨシヨシ 「んなっ!?べ、別に心配されるような怪我はしてねぇよ…。ほら、あっち行け!」シッシッ 気付くと瞳がこちらへ近寄って頭を撫でていた。 どうやら四方との戦いに負けた俺を心配しているようだが余計なお世話だ。 「……………………」クスクス ぐっ…。そんな風に笑われると冷たく当たり難いだろうが…! 「やっぱり瞳ちゃん相手の時だけ態度違うよなぁ?」ボソッ 「だから言ってるだろ?粉原は罪木の事を妹の様に思ってるって」ボソッ 「粉原さえ籠絡するとは…!流石は瞳ちゃん、デバッカーの潤滑油は伊達じゃないな…」 「瞳にそんな異名が付いていたのか…」 少し気を抜くとえらく勝手な事を言ってやがるなこいつら。 「お前ら…。別にそんな風に思っちゃいねぇよ。子どもの相手は慣れていないだけだ」 「……………………(お兄ちゃんの様なものです)」 瞳の目が何となく碌でもない事を考えているように見える。 と思っていると、その隣に立っている四方も同じ目をしている。嫌な予感しかしねぇぞ、これ… 「何なら本当にお兄ちゃんになってみるかい?」 「あん?どういう意味だよ?」 予想通りよく分からない事を言い出した四方を怪訝な目で見つめ返すと四方は説明を始めた。 「施設から逃げ出した時に、戸籍が無いと不便だからって話でさ。色々コネを使って個人情報を作ったんだけど…」 確か吉永と同じ研究施設に居たんだったか。 コイツが脱走した際の被害が原因で研究は凍結、他の被験者も野に放たれる事になったと聞いているが… 「……………………(その際に、私は視歩の妹として登録された)」 「そんな訳で、表向きは私と瞳は姉妹って事になってるのさ」 「ほぉ。それは知らなかったな。お前ら姉妹だったのか…」 その説明に俺は素直に感心した。姉妹の様だと思う事は幾度と無くあったが、実際に姉妹だったとは。 案外世の中は見たままな事が多いのだな、と心の中で頷いていると樹堅が何かに気付いたように呟く。 「…うん?それで、本当に姉妹になるって言うのはつまり…」 「私と夫婦なれば、瞳は本当の意味で妹になるよねぇ…?」 そりゃあ、そうすれば義妹にはなるんだろうが…は?今なんていったこいつ。 お、落ち着け。確か、夫婦がなんとかって………ぶっ!ふ、夫婦だと!? 「なぁっ!?な、何言ってやがんだテメェ!!正気か!?」 「まずはお友達から始めてみるかい?粉原君?」ニヤニヤ そのニヤニヤとした顔を見ていると怒りよりも呆れが浮かんできた。 ほんとにもう、なんというか… 「もう勘弁してくれ…」 としか言い様が無い。本気で言ってるわけでは無いのがちゃんと分かるのが救いか。 そこすら判断がつかなくなれば俺はとてつもない恥をかく事になりそうだ。 「くっくっくっ。君の反応はいちいち面白いな」 …コイツいつかぶっ飛ばす。絶対に! 「楽しそうだなぁ…。二人とも何だかんだと仲が良いよな」 ほうっ、と息を吐きながら言葉を落とす入場が目に入る。 女子組みのチョコを待ちくたびれたのかすこし眠そうだ。 「四方と粉原の関係性がいまいち良く分からんのだがな…」 樹堅もいまいち俺と四方のやり取りがしっくり来ていないようだ。 無理も無いとは思う。俺は四方が苦手だが、その気持ちとは裏腹にこいつは俺にやたらと構う。 「俺が入るより先に居たしなぁ。その頃から既にこんな感じだぜ?この二人」 最近ではもう諦めの境地に達しつつあるので、逃げもせずに話しに応じているわけだが…。 どうやらそれが仲の良いように見えるらしい。迷惑な話だ、全く。 「……………………(彼はかなり初期の頃から居るメンバー)」 「うん。粉原は瞳を除けば一番最初に裏側に来たメンバーだからね」 そういえばそうだったか。初めてコイツに会ったときは良く分からない奴だと思った。 いや、今でも底がいまいち量れない奴であるのは確かなのだが。 「俺が入る前に居たメンバーは…朱点だけだったか?」 とはいえ、奴は表側のメンバーだからカウントに入れるていいのかは微妙だが。 「うえっ!?あいつそんな前から居るメンバーなのか?」 入場が驚いた様に声をあげる。こいつは朱点と仲が良かったはずだし、純粋に意外だったのかもしれない。 当初は今の様に施設を強襲するような活動は行ってなかったな。 戦いたくて仕方なかった俺を朱点が抑えていた記憶が蘇る。 「一番最初に誘ったメンバーだからね。私達の活動を考えると、どうやっても朱点のような男が最初に必要だったんだ」 確かに奴の見た目によらない管理能力や、子どもに好かれるところは俺たちの活動には必要不可欠だしな。 最初に誘ったのも頷ける、が。あんまり朱点と四方の組み合わせってのも想像できないよな。 「最初は…四方と罪木だけだったんだよな…」 樹堅の言葉でふと気付く。たしかに、俺や朱点が入る前はこいつら二人だけだったんだよな… その頃の二人は今ではあまり想像できない。こいつらの周りにはいつだって人がいるイメージが強いからな。 「ああ。その頃はこんな組織を作る事になるとは思ってなかったけどね」 「……………………(最初に比べれば随分と賑やかになった)」 んー、と口の下に人差し指をあてて何かを考えている。 不意に見せられた女の子らしい仕草に目を奪われる。こいつも女子なんだよな… …はっ!?俺は何を考えているんだっ!?さっきの夫婦がどうとか言う話に意識を持っていかれたな、KOOLになれ! 「そろそろ追加メンバーが欲しい頃合かな?」 そしてこいつはこいつでまた聞き逃せない事を…。 唯でさえ濃い面子なのに、こいつに勧誘をさせたらますますカオスになりかねん。 「おいおい。これ以上変な奴増やされたら堪らねぇぞ」 「変な奴かどうかはともかく、どんなメンバー増やす気なんだ?」 割と気になっていた事を入場が代わりに聞いてくれた。 新しいメンバーが入るにしたって先にどんな奴か聞いておけばダメージも少ない。 「………メイドかな」 「「「「…………は?」」」」 前言撤回。先に聞いた方がダメージでかかったわ、これ。 よりによってメイドって…。この組織を何だと思っているんだこいつは。 「おいおい。繚乱の子でも拉致してくる気か?」 メイドといえば繚乱女学院が思い浮かぶ。 まさかこいつ、既に誰かに当たりをつけて拉致ってくる算段を立てているんじゃ… 「くくっ。冗談だよ、今はね」 ただ、そんな予感がしてるんだよ、と笑う。 冗談じゃないぞ、こいつの予感って言葉は予知と言い換えても良いほどの精度を誇るというのに。 「………予感、ねぇ…」 不安にしかならない発言だった。 一ヶ月後にはこの場にメイドが佇んでいる、そんな幻視をしてから頭を振って妄想を取り払う。 「…お。あっちの料理組も終わったみたいだな」 樹堅が視線を台所に向けて呟いた。 同調すると向こうから手にトレイを乗せた女子組が来ているのが見えた。 「思ったよりも時間掛かったみたいだね。…芙由子だけに任せたのは酷だったかな?」 心配そうな顔で覗き込んできる。 肝心の吉永は憔悴した顔で近づいてくると、四方の頭に軽くチョップを食らわせながら 「ほんっとにその通りよ。こうなるの分かってて私に任せる辺り性根が腐ってるわ、あんた!」 と吐き捨てる。本気で怒ってる訳では無いのは見てれば分かる。 富士見の世話をするのだって嫌いでは無いのだろうな、こいつは。 「別に確信があった訳じゃないよ。…嫌な予感がしたのは確かだけど」 「嫌な予感がしたなら口に出しなさいよ。割とマジで」 同意だ。良く当たる勘なら事前に知らせておいて欲しい。 そうすりゃもうちょっとうまく立ち回れるっていうのに。 「……………………(秘密主義は基本ですから)」 そんなに秘密にしているつもりも無いんだけどねぇ、と言うがそんな訳あるか。 吉永の更に後ろのほうから富士見がにこにこと歩いてくる。 「色々あったけど、なんとか完成したの!」 元気良く、びしっと腕を上げながら声を上げる。 そんな能天気な様子を、隣に居た吉永が睨みつける。 「焔ぁ…あんた後で覚えときなさいよ…?」バリバリ 「ひぃ!ごめんなさいなの!」 …女ってあんなに恐い目が出来るんだな。 さしもの俺もさすがに今の目つきとドスの聞いた声には身が震えた。 「四方さんっ!私のも出来ましたっ!」 江向か…。どうも俺はアイツには嫌われてるみたいだから、口は挟まない方が良いだろうな。 確かにあいつの覚悟の足りないところは見ててイライラする事もあるんだが… 「へぇ、うまく出来たかい?」 だからと言って、あんなに嬉しそうに四方に笑いかける江向に水を差すのも空気が読めてないだろう。 それでもなくても今日はお祭りみたいなもんだしな。 「はいっ!四方さんの分もありますから、後で食べてくださいね」 だから、ちょいちょい向けられる敵意の視線も今日はスルーだ。 しっかし、そこまで嫌われることをしたかね?覚えが無い… 「有難く頂くよ。焔と芙由子もうまく出来たかい?」 にこやかに笑いかけながら江向の頭を撫でる四方。 …なんだ、こっちに向けてくる意味深な目線は。うらやましくねぇからな? 「うん!自信作なの!」 服の袖をにわかに焦げさせながら自信満々に言ってのける。 こいつはこいつで変わらんな。仲間になったときからずっとこうだ。 「先に自分の分だけ作ってて良かったわ、ほんと」 最近では吉永とも仲が良いように見える。 何だかんだと世話を焼いているようだが、さて…。 「くっくっくっ、次の機会があるなら対策を考えておくさ」 ま、そこらへんの人間関係は俺の知った事じゃない。 せいぜい四方に頑張ってもらうさ。俺は俺のやりたいようにするとしよう。 ~~~side 焔~~~ 「ふん…。何でチョコ一つ渡されるのにここまで疲れなければいけないんだ、全く」 粉原クンがグチグチ言ってるけど、今更言っても仕方ないの。 というか、実は楽しんでる事なんてバレバレなの。 「一つでは無さそうだけどな。それに、満更でも無い顔してるぜ、粉原」ニヤニヤ 周りの男の子達も良く分かってるの! 粉原クンもいい加減私達に馴染んでくれても良いと思うんだけどなぁ。 「粉原の脳内に検索かけたら、一番楽しみなのはやっぱり罪木のチョ「だからやめろ!!」 樹堅クンが眼鏡を光らせながらニヤリと笑う。 たぶんあれ、能力使ってないのね。わざわざ読まなくても見てれば分かるの。 粉原クンも、瞳ちゃんに接するときくらい優しくなってくれればモテモテになれるの。 「はいはい、そこまでしときなよ、男子諸君」 見かねた様子で割り込んできた視歩ちゃんが手をパンパンと叩く。 粉原クンが露骨にほっとした顔をしている。顔に出やすいなぁ、なの。 「そうそう、せっかくのバレンタインなんだし大人しく受け取りなさい」 同調する芙由子さん。仕切り役をやらせるとしっくり来るよね。 お鍋とか一緒にしたら、鍋奉行に進んでなってくれそうだ。 あ、皆で鍋っていうのも楽しそうなの!次の計画は決まりなの! 「……………………(結構たくさんあるから、いっぱいたべてね)」 瞳ちゃんがニコニコと笑いかけている。 そういえば瞳ちゃんのチョコが一番多かった気がするの。 「えと…焔ちゃん、そろそろ渡してあげて?」 最後に香ちゃんが私の背中を押す。 よし、と気合を入れてトレイに乗せられたチョコたちを見る。 「はーい、なの!…それじゃあ、改めて。男子の諸君に日頃の感謝を込めて!」 「「「「「ハッピーバレンタイン!!」」」」」
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある二人は反逆者 第4章 ①大覇星祭開幕 学校の数が尋常ではない学園都市はそれに比例して校長の数も多くなっていく。 そうすると大覇星祭といった合同行事がある場合、いわゆる校長先生のお話の尺がとんでもないことになっていた。 やたらとお話好きの校長が多いため、大覇星祭の開会式はある種の地獄の様を呈していた。 地獄のような開会式を終え、上条は恋人である美琴との集合場所に向かった。 集合場所といっても上条のクラスは初日の第一種目からスタートだったため、 二人が約束した場所は上条のクラスが参加する種目の会場である。 会場に向かうと美琴が先に待っていた。 「美琴、熱中症とかになってないか?」 上条はあの開会式を終え、恋人である美琴が体調に異変を起こしてないか心配するように尋ねる。 「私は平気。 当麻こそ大丈夫だった?」 「ああ、心配してくれてサンキューな」 「うん」// 頭に右手を置いてお礼を言う上条に、美琴は照れながら返事をする。 何となく子供扱いされているようだが、美琴は上条の右手で頭を撫でられるのが大好きだった。 自分を救ってくれた右手に触れられていると心がとても安らぐのだ。 見ている周りが熱中症になりそうな雰囲気を放ちながら、二人は炎天下であるにも拘らず手を繋いで歩き始める。 「でも当麻と同じ赤組で良かった。 これなら堂々と当麻のことを応援できるもん」 上条と美琴の頭には同じ赤色のはちまきが巻かれている。 大覇星祭はとにかく参加する学校の数が多い。 そして学校対学校、赤組対白組、二つのトータルを加算して最終的に学校の順位が決められる。 基本的に学校が違う場合はライバルということになるのだが、それでも同じ組の場合は仲間意識のようなものが生まれる。 中には同じ組で協力し合う合同の競技もあったりする。 美琴は上条とこういった競技に出たがったが、上条は身の危険を感知して辞退していた。 男の嫉妬は見苦しいと共に意外と怖いものなのだ。 そう思いつつも恋人と日中から堂々といちゃいちゃする辺りが上条らしいのだが… そして男の嫉妬がこの第一種目で上条に降りかかることになる。 上条のクラスの対戦校はいわゆるエリート校と呼ばれる学校だった。 そしてエリートというのは変なところでプライドが高いものである。 無名の底辺校のあまりパッとしない男子が可愛い女の子、 それもレベル5の第三位である超電磁砲と仲良くしてれば面白くないことこの上ない。 「じゃあ当麻、頑張ってね!!」 「相手はエリート校だからあまり期待されてもな…」 自分が格下だと自覚はあるらしい。 「大丈夫、当麻だったら○○高校になんて負けないわよ!!」 美琴のその一言がエリート達の闘志に火を点けた。 (目の前で彼氏をボコボコにして、その幻想をぶち殺す!!) そうして上条は自身の預かり知らぬところで、エリート達の恨みを買うことになるのだった。 「…なあ、カミやん。 相手のチームの男子、とんでもない目付きでカミやんのこと睨みつけてるんやけど」 「…言うな、青ピ。 俺も妙な殺気をヒシヒシと感じてる」 上条はあまりの殺気に不幸な予感しかしていなかった。 別に彼らに恨みを買うことをした覚えは上条にはない。 いわゆるリア充への逆恨みという奴なのだが、上条がそのことを知る由もなかった。 「しかしこれは却ってチャンスなんだにゃー」 「そうね、これで相手に付け入る隙が出来たわ」 しかしそんな状況を僥倖だと言わんばかりに土御門と吹寄は周りの人間を集めて作戦会議を始める。 上条は悪寒を感じながらも自軍の作戦会議に加わる。 どうやら敵は敵のチームだけではないようだ。 上条が参加するのは棒倒し。 自軍の陣地内に長さ7mほどの棒を一本立て、自軍の棒を守りながら敵軍の棒を倒すというスタンダードなものだ。 しかしそこに火の玉や念動力の槍が飛んでくるという点が通常の棒倒しと大きく異なる。 そして上条の所属するチームにとっては必勝の、上条にとっては悪夢の作戦が実行されようとしていた。 競技開始のホイッスルが鳴り響く。 そしてホイッスルの音と共に上条は自軍に向かって左手の方向に一人で飛び出す。 それは明らかな陽動なのだが、陽動にしてもお粗末過ぎる。 ある程度の人数で動かなければ、陽動に釣られる馬鹿はいない。 しかし自分達から見れば学力でも能力でも足元に及ばない底辺校が相手だ。 これで陽動になると勘違いしてるのかもしれない。 それに加えて陽動に動いたのはあの忌々しいリア充だった。 見せしめに血祭りにあげるのも悪くない。 走り続ける上条に能力による攻撃の嵐が降り注ぐ。 上条を包み込むように激しい砂埃が巻き起こり、上条の姿は一時的に見えなくなる。 砂埃が消え去る頃には落ちこぼれが一人地面に伏しているはずだった。 あまりに一方的な攻撃に会場は静まり返る。 対戦校にも少しやり過ぎたことを後悔する空気が漂い始める中、砂埃の中から一つの影が飛び出した。 飛び出した影の正体は上条だった。 服は所々汚れが目立っているものの、特に大きな外傷がある様子はない。 そして自軍に一人で向かってくる上条の放つ迫力に相手チームは思わず上条を迎撃しようと陣営を崩してしまう。 本来なら一人で突っ込んできたところで相手になるはずがない。 しかし能力を喰らってもまるで堪えた様子がない上条に相手チームは冷静な判断を失っていた。 そして崩れた陣営の一角に上条の所属するチームが一気に雪崩れ込んだ。 結果として勝敗は上条のチームの圧勝だった。 そして勝負の決着がついた後もちょっとした騒動があった。 競技が終わって上条のクラスが競技場から退場しようとした時、上条の身を心配した美琴が上条のところに駆け寄ってきた。 上条にあの陽動作戦を強いた土御門と吹寄は少し罰が悪そうな顔をするが、美琴の目には上条しか写っていない。 「当麻、大丈夫? 何処も怪我なんてしてないよね?」 「ああ、全然平気だ。 美琴に頑張ってって言われたからな、言われた通りちゃんと勝ったぞ」 「ゴメンね、私が無理を言ったせいで…」 「いやいや、上条さんも美琴に少しでも格好いいところが見せられて満足ですよ」 美琴は上条の無事を確認するように上条を抱きしめる。 そして上条も美琴のことを抱きしめ返すのだった。 いつもならクラスメイトからの嫉妬の嵐に晒されるところだが、今の競技で勝利を収められたのは上条のお陰だったので、 二人の邪魔をしようという野暮な人間は上条のクラスメイトにはいなかった。 しかし野暮な人間がいないのはクラスメイトの中の話だけである。 今の劇的勝利の立役者である上条にインタビューしようとしていた学園都市内のテレビ局のカメラに 二人が抱き合う姿がしっかりと収められてしまっていた。 そして姿はライブ映像で学園都市中のスクリーンに映し出されることになった。 その映像を見て常盤台の一人の生徒がその場で気絶したのは割愛。 学園都市に反逆しようとしているカップルは学園都市で一番有名なカップルになってしまった。 その後は大変だった。 何処に行くにも二人が一緒に行動する限り、常に後ろ指を指されるようになってしまった。 上条は騒ぎが落ち着くまで別々に行動することを提案したが、別に疚しいことをしていないと美琴が却下した。 その後も美琴が参加した借り物競争のお題が上条にちょうど当てはまるもので二人一緒に学園都市を駆け抜けたり、 借り物競争が終わった後に配られたドリンクを二人で間接キスの要領で分け合ったりと、 何故か上条と美琴のカップルを強調するような出来事ばかりが起こるのであった。 しかし今の上条にとって初めて迎える大覇星祭は恋人である美琴と共に過ごす思い出深いものになるのだった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある二人は反逆者
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前ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある幼馴染の幻想殺し 第1章 ①虚空爆破事件 「あ、御坂さーん!!」 美琴が声のした方を見ると、白井を通して知り合った初春だった。 隣には友達だと思われるロングストレートの黒髪の少女がいる。 「おっす、そっちはお友達?」 「はいっ、これから一緒に洋服を見に…」 すると初春のことを黒髪の少女がズルズルと引きずっていった。 (ちょっと、あの人 常盤台の制服を着てんじゃない? 知り合いなの?) 一般の学校に通う生徒にとって学舎の園にあるお嬢様学校は憧れの的であり、 その中でも常盤台は学園都市でも能力開発において五本の指に入る超有名校だ。 恐らく少女は常盤台というだけで、少し気後れしてるのだろう。 それに追い討ちを掛けるように初春は友人の少女に言った。 「しかも あの方はただのお嬢様じゃないんですよ。 レベル5、それも学園都市最強の電撃使い… あの『超電磁砲』の御坂美琴さんなのです!!」 すると少女は興奮した様子で、美琴の手を掴んで自己紹介を始めた。 「あのっ、私 佐天涙子です!! 初春の親友をやってます!!」 「そ、そう、よろしくね」 佐天の興奮した様子に若干 引きながらも、美琴も佐天に自己紹介を返す。 「そういえば最近 姿をお見かけしませんでしたけど、何かあったんですか? 白井さんも御坂さんの元気がないって心配してましたよ。 …最近は白井さんのほうが明らかに元気がありませんけど」 「…ちょっと色々とあってね。 ありがとう、心配してくれて。 黒子に元気がないのも私が関係してるんだけど…」 美琴がそう言い掛けた時… 「おーい」 上条が二本の缶ジュースを持って、美琴のところに駆け寄ってきた。 「美琴はヤシの実サイダーで良かったんだよな?」 「うん、ありがとう」 そう言って上条から缶ジュースを受け取った美琴のことを 初春と佐天は先ほどまでとは少し異なった羨望の目で見つめている。 「どうしたの、二人とも?」 美琴はそんな二人の様子を少し訝しみながら尋ねる。 「もしかして、その人って御坂さんの彼氏ですか?」 突然の質問に美琴は戸惑いながらも、顔を赤く染めて頷く。 (何ですか、その乙女な反応は!? 何だか白井さんの気持ちが少し分かってしまったような…) 初春は美琴に釣られて一緒に頬を染めている。 そして一方の佐天はというと… 「キャー、彼氏がいるなんて やっぱり大人ですね!! ぜひ詳しい馴れ初めを教えてください!!」 変な方向にテンションが上がりまくっているのだった。 「へー、お二人は幼馴染なんですか? それで学園都市で再会したなんてロマンチックですね!!」 佐天に釣られたのか いつのまにか初春のテンションまで高くなって、 上条と美琴は佐天と初春の二人から質問責めにあっていた。 ちなみに上条と美琴も初春たちと同じセブンスミストが目的地だったため、 一緒に同行することになったのだった。 「でも白井さんの元気が無かったのって御坂さんに彼氏が出来たからなんですね。 これで少しは正常な道に戻ってくれるといいんですが…」 「ハハッ、それは言えてる」 すると佐天が上条に興味深そうに尋ねた。 「でもレベル5の御坂さんの彼氏だなんて、 上条さんも何か凄い能力を持ってるんですか?」 「能力はあるっていえばあるんだけど、身体検査じゃレベル0なんだよな」 「どういうことですか?」 「…俺の右手って異能なら何でも打ち消すことが出来るんだ」 「えっ、もしかして それって海賊ラジオの!?」 「海賊ラジオ?」 「様々な場所からネットを介してゲリラ的に生放送を行っているラジオのことです。 その中の内容の一つに、 全ての能力を無効にするブラックホールのような無能力者っていうのがあったんです」 「うーん、確証はないけど 確かに俺のことかもな」 「…いいですね、レベル0でも特別な力があるんだから」 「もしかして、佐天さんもレベル0なのか?」 「ええ 超能力に憧れて学園都市に来たのはいいものの、 初日の身体検査で"あなたには全く才能がありません"って言われて… 流石にその時はヘコみましたよ」 そう言う佐天の顔には劣等感に塗れた卑屈な笑みが浮かんでいた。 「俺は諸事情で学園都市に来たから佐天さんの気持ちが完全に分かるわけじゃないけど、 佐天さんは学園都市に来て後悔してるのか?」 「どうでしょう、正直よく分からないです」 「確かに、この学園都市じゃ能力の優劣で価値を判断されることが多い。 無能力者には生きづらい社会だっていうのも分かる。 でも、能力じゃなくても学園都市に来て得られたものだったあるはずだ」 「能力じゃないもの?」 「…例えば友達とかな」 上条の言葉に佐天は思わず初春の方を見る。 そこには心配そうに佐天のことを見つめている初春の姿があった。 「例え学園都市であっても能力だけで全てが決まるわけじゃない。 気にするなとは言わないけど、意外と本当に欲しいものって身近にあるもんだぞ」 「…そうですね。 すみません、劣等感を押し付けるような真似をしてしまって」 「いや、俺のほうこそ説教臭いこと言って悪かったな」 上条の言葉に佐天の笑顔は自然なものへと変わっていた。 そんな佐天の笑顔を見て上条も笑みを零す。 そして先を行く上条の背中を見ながら、佐天は美琴に囁くように言った。 「上条さんって素敵ですね」 「そ、そうかな?」 「いいなー、御坂さんには あんな格好いい彼氏がいて。 私も彼氏が欲しくなちゃった」 「…」 「大丈夫ですよ、そんな目で見なくたって。 別に御坂さんから上条さんを奪おうだなんて思ってませんから」 「本当?」 首を傾げながら尋ねる美琴に佐天は思わずキュンとしてしまう。 「あー、御坂さんってば可愛すぎ!! レベル5っていうと凄い人だとばかり思ってましたけど、普通の女の子なんですね。 あの 御坂さん、良ければですけど私と友達になってくれませんか?」 「えっ?」 美琴は思いがけぬ提案に思わず聞き返してしまう。 「…やっぱり一般人なんかじゃ駄目ですか?」 (やっぱりお兄ちゃんは自分を不幸になんてしない。 こうやって思いがけない幸せを運んできてくれるのだから…) 「ううん、喜んで!! これから よろしくね、佐天さん!!」 やがて目的地のセブンスミストに着くと、四人は婦人服フロアへと向かう。 しかし そんな四人を怪しい目つきで見つめる人影があることに 上条たちは気付いていないのだった。 「上条さーん、この下着なんてどうですか?」 そう言って佐天は上条に手に取った下着を見せる。 上条は思わず目を逸らした。 「ちょっ、佐天さん!! 当麻になんてもの見せてるのよ!!」 「えー 別に身に付けたものじゃないんだから、いいじゃないですか?」 「それでも駄目なもんは駄目なの!!」 上条は彼女である美琴の付き添いであるとはいえ、 不用意に婦人服フロアに来てしまったことを早くも後悔していた。 そして初春は美琴と佐天の争いを諌めるように言う。 「と、ところで御坂さんは何を探しに?」 「えっと、私はパジャマとか…」 「それなら寝巻きは、こっちの方に…」 下着のコーナーからようやく移動して上条は心の中で一息吐く。 「色々回ってるんだけど、あんまりいいのが置いてないのよね…」 そして寝巻きのコーナーを見て回っている内に、美琴はあるパジャマの前で足を止めた。 そのパジャマはピンクの生地に花柄模様の付いたものだった。 「ねえ、このパジャマかわ…」 「アハハ、見てよ初春 このパジャマ!! こんな子供っぽいの今時 着る人いないっしょ」 「そうですね。 小学生の時くらいまでは、こういうの着てましたけどねー」 「そ…そうよね、中学生になって これはないわよね」 「あ、私 水着を見ておこうと思うんですけど、上条さん選んでくれませんか?」 「…先行っててくれ、美琴のパジャマを選んだらすぐに行くから」 「はーい」 佐天と初春は返事をすると、水着コーナーに向かって走っていく。 「…取り合えず試着してみればいいじゃねえか?」 「当麻は笑わない?」 「今更 俺達の間で何言ってるんだ? そういう可愛らしいものが好きなのも含めて美琴だろ? …それに俺は美琴に似合ってると思うぞ」// 「あ、ありがとう」// 美琴は結局そのパジャマを購入することに決めた。 そして美琴はパジャマを購入すると、 上条と手を繋いで水着コーナーへと向かうのだった。 「…」 「ねえ、機嫌直してよ」 「…別に上条さんは彼女が他の男に目移りしただけで怒るほど、 小さな男じゃないですよ」 「だから あの人を見てたんじゃなくて、持ってた縫い包みを見てただけだって」 「分かってるよ、少しからかっただけだ」 「もう、そういう冗談はよしてよね!!」 「…半分は本気なんだけどな」 「え?」 「何でもねえよ」 上条と美琴は現在 ベンチに腰掛けている。 佐天と初春はトイレに向かっていた。 上条と美琴の口論の原因だが、美琴が通りすがった男にジッと視線を向けたのだ。 美琴は男が持っていた縫い包みを自分の好きなゲコ太だと勘違いしただけなのだが、 上条は美琴が男を見ていたと勘違いした。 それが原因でちょっとした口論になった、それだけのことである。 そして上条自身、自分の感情に少し戸惑っていた。 上条は自分がこんなに嫉妬深い男だとは思っていなかった。 美琴は何も悪くないのに責めるようなことをしてしまった。 そんな自分に上条は自己嫌悪に陥り中である。 しかし一方の美琴は逆に顔には出さないが、上条が嫉妬してくれたことに喜んでいた。 上条が自分のことを嫉妬するほど深く想ってくれている… 美琴はそのことが分かっただけで大満足だった。 すると佐天と初春がトイレから帰ってきた。 しかし その様子は先ほどまでと違い、ひどく慌てふためいたものだった。 「どうしたんだ?」 「衛星が重力子の爆発的加速を観測したんです!!」 「それって もしかして!?」 「はい、例の虚空爆破事件の前兆です!!」 ここ最近、学園都市で無差別に起こっている爆発事件。 アルミを基準にして重力子の数ではなく速度を急速に加速させることによって、 それを一気に周囲に撒き散らす…要はアルミを爆弾に変える能力。 しかし学園都市の『書庫』には事件の規模に見合う能力を持った人間が一人しかおらず、 その能力者も現在 謎の昏睡状態に陥っていて事件を起こすことが不可能だった。 そのために容疑者の特定が出来ずに警備員や風紀委員も後手に回っていた。 「御坂さん、上条さん。 すみませんが、避難誘導に協力してもらえませんか?」 「わかったわ」 「佐天さんも早く避難を…」 「う、うん、初春も気をつけてよ」 そして初春は急いで店員に緊急事態であることを伝え、上条と美琴は避難誘導に回った。 多少の混乱はあったものの、避難は速やかに行われ無事に全員退避したように思われた。 しかし… 「初春ー!!」 「佐天さん、どうしてここに!?」 「女の子が一人行方不明で、何処にも見当たらないって お母さんが…」 上条と美琴も含めて脱出しようとした矢先のことだった。 「お姉ちゃーん」 一人の少女が変な縫い包みを持って初春のところに駆け寄ってきた。 「あれ、あなたはこの間の?」 少女は初春が先日とある一件で知り合った少女だった。 行方不明だと思われる少女が見つかったことに安堵の息を吐く一行だったが、 少女の一言がその場の空気を不穏なものへと変える。 「メガネを掛けたお兄ちゃんが、お姉ちゃんに渡してって…」 この状況で誰かに縫い包みを渡すよう頼むことに違和感を覚える。 ブン… そして縫い包みが放った音が不信感を確信へと変えた。 「逃げてください、あれが爆弾です!!」 初春は少女を庇うようにして縫い包みから距離を取る。 そして縫い包みは音を立てて周りの空間を圧縮するように潰されていく。 虚空爆破事件による爆発の前兆だった。 (レールガンで爆弾ごと吹き飛ばす!!) 美琴は咄嗟にスカートのポケットに手を入れ、 レールガンに使うコインを取り出そうとするが… コインが美琴の手から滑り落ちた。 (マズった、間に合…) 次の瞬間、凄まじい轟音と爆風が辺りに響き渡った。 「凄い、素晴らしいぞ 僕の力!! 徐々に強い力を使いこなせるようになってきた!! もうすぐだ!! もう少し数をこなせば、アイツらも無能な風紀委員もまとめて…」 線の細いメガネを掛けた少年がそう高笑いをあげようとしたその時… 「吹き飛ば…ぐあっ!?」 いきなり肩を掴まれたと思ったら殴り飛ばされていた。 「な、一体何が!?」 「よう、爆弾魔」 少年を殴り飛ばしたのは他ならぬ上条だった。 「用件は言わなくても分かるよな?」 「な、何のことだか僕はサッパリ…」 「狙いは風紀委員だったんだってな。 でも風紀委員の初春さんも含めて、誰一人 怪我を負ってねえよ」 後から初春の携帯に入った連絡によると、 虚空爆破事件の現場には必ず風紀委員がいたらしかった。 そこから風紀委員が爆破事件のターゲットであると風紀委員の本部は判断したのだった。 「そんな馬鹿な、僕の最大出力だったんだぞ」 「へえ」 「い、いや、外から見ても凄い爆発だったからさ」 しかし少年はそう言った瞬間、能力を発動させたアルミのスプーンを上条に投げつけた。 「死ね!!」 しかし飛んできたスプーンを上条が右手で受け止めた瞬間、 能力の発動は収まってしまった。 「い、一体何が起こったんだ!?」 次の瞬間、上条は少年との距離を詰めると一気に少年を組み伏せる。 「暴れてもいいが、それなりの覚悟はしてもらうぞ」 「くそ、くそ!! そうやって僕を見下しやがって!! 殺してやる、お前みたいなのがいけないんだ!! 風紀委員だって、力がある奴は皆そうじゃないか!!」 「…何かお前に事情があるのは分かった。 でもな、だからってお前がやったことが正しいって本気で思ってるのか? さっきは、あんな小さな女の子まで巻き添えになるところだったんだぞ」 「それは風紀委員が守るに決まってるから」 「じゃあ何でそんな風紀委員を狙うような真似をしたんだよ?」 少年は上条の言葉に今までの風紀委員の行動を思い返す。 確かに間が悪いことばかりだった。 それでも風紀委員は最後には必ず少年の下に駆けつけてくれた。 何てことは無い、単に少年は風紀委員を逆恨みしてただけだった。 少年は自分がやってきたことが、 自分を傷つけていた人間と何ら変わりがないことに気が付いた。 「俺には、お前の苦しみは分かってやれねえ。 それでも本当に力が貸して欲しいなら力になることはできる」 「…いや、これは僕自身で片を付けなくちゃいけないから。 罪を償ったら、もう少し本当の意味で強くなれるよう頑張ってみるよ」 「…そうか」 そして上条は少年と並んで、駆けつけた風紀委員のところへ向かうのだった。 「…犯人逮捕のご協力、感謝しますわ」 「いいって、アイツは自分から自首したんだからさ」 「…一つ、お聞きしてよろしいですの?」 「何だ?」 「それは黒子に対する嫌がらせと挑戦と受け取っていいんですの!?」 そう叫んだ白井の前に立つ上条の横には美琴がベッタリと上条と腕を組んで佇んでいた。 その挙句に上条の肩に頬ずりをしてる始末である。 「だって、お兄ちゃんが皆を守ってくれたんだもん」 先ほどの爆破から皆を守ったのは上条だった。 間に合わなかった美琴の超電磁砲の代わりに爆風の前に飛び出し 皆を庇うように右手を使ったのだった。 「お兄ちゃんですの!? まさか二人でそんなアブノーマルなプレイを行っているんじゃ!?」 「何だ、アブノーマルなプレイって!? 俺と美琴は幼馴染で、偶にこうやって昔の呼び方に戻っちまうんだよ」 「くっ、幼馴染とは…思いがけぬアドバンテージをお持ちでしたのね。 しかし黒子はその程度で諦めませんわ!!」 そして三人の様子を遠巻きから見ていた初春と佐天は… 「あれが例の白井さん? 何ていうか…変わった人だね」 「良い人に間違いはないんですが、見ての通り性格が少々残念な人で…」 すると初春の背後で突然… 「初春、聞こえてますのよ。 誰が残念な人ですの?」 「て、テレポート!?」 「ひぃー」 「その花を一つ残らず毟ってやりますわ!!」 そして追いかけっこを始めた初春と白井を余所目に上条と美琴は… 「それじゃあ、帰るか?」 「うん」 二人で並んで帰ろうとしたのだが… 「ちょ、ちょっと、待ってください!!」 佐天が何処か驚いた様子で二人のことを呼び止めた。 「帰るかって、もしかして二人は一緒に暮らしてるんですか!?」 「誤解されると嫌だから言っておくけど、 一緒に暮らしてはいるが 疚しいことは何もしてないからな」 しかしそんな上条の言葉を佐天は全く聞いておらず、 ただ興奮した様子で美琴に詰め寄っている。 「凄ーい、御坂さん!! 彼氏と同棲なんて、やっぱり大人なんですね!!」 「あうぅ」 「いいな、彼氏と二人暮らし。 どんな部屋で暮らしてるんですか?」 「…それじゃあ今から部屋に来る?」 「えっ、いいんですか?」 「うん、友達なんだし…」 「分かりました、それじゃあ お邪魔させてもらいます!!」 そして上条と美琴は佐天たちと共に一緒に暮らす部屋へと戻るのだった。 前ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある幼馴染の幻想殺し
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Festival of large star IF「途中抜き話シリーズその1:とある昼食のラブコメ」 1 喫茶店に入るとやたらと元気な声をさせて長髪のウエイトレスが飛んできた。 「いらっしゃいませぇー。 お二人様ですねー? こちらへ―」 「いや、俺は人と待ち合わせしていて、先に来ているはずなんだけど?・・・ん?二人?」 早速席へ案内しようとするウエイトレスを手で制して店内を見渡そうとしてウエイトレスの発言になにかが引っかかる。 上条はこの喫茶店に一人で来たはずなのにウエイトレスが案内しようとしたのは2人。 疑問に思ってウエイトレスに聞いてみる。 「いま二人って言った? 俺一人で入ってきたはずなんだけど――おわぁ!白井!?いつの間に後ろにいやがる!」 「あらら、その反応は女性を対してかなり失礼ですわよ。 ナイーブなわたくしのハートは結構傷つきますの。それからいつの間に、じゃありませんわ。 番号を教えてあるのに待てど暮らせど連絡は無いですし!私が殿方に番号をお教えするなんてことは本当に珍しいのですわよ。 あんまり連絡が無くて半分諦め気味に軽く散歩でもして常盤台中学の応援にでも行こうかなー、とか思ってブラブラしてたらこの 喫茶店に入るあなたが見えたので空間移動(テレポート) して背後に移動、それで今に至るって感じですわ」 上条の背後にはスポーツ車椅子に乗ったツインテールお嬢様―白井黒子が居た。 その顔はにこにこと笑ってるように見えるが良く見るとこめかみのあたりに青筋が見える。 連絡していなかったのを怒っているみたいだ。 上条はバツが悪そうに視線を泳がせて白井を見て 「あ゛~、その、なんだ・・・。 いまから親父達と一緒に昼メシなんだけど・・・その、よかったらお前も一緒に来るか?」 鼻の頭をカリカリと掻きながら白井に言ってみた。 「ええ、ご一緒させていただきま―――ッ!?」 快く承諾の意を上条に伝えようとした白井が突然言葉を切って固まる。 ん?、と思って白井の視線を辿ってみるとその先にはなにやら不機嫌そうにテーブルに頬杖を突いて座る御坂美琴の姿があった。 「白井?もしかしてあの人は、アレかな?俺と会うたびに10億ボルトの電撃を撃ってくる中学生かな?」 上条のその言葉を聞いて白井は顔を蒼白にしてガタガタと震えだす。 しばらくそんな状態を続けた後に 「と、殿方さん、申し出は嬉しいのですがわたくし、い、いまはダイエット中でして、その昼食は 控えておりますの、やはり痩せてるほう魅力的ですわよね。というわけで失礼します!!」 早口でそんな事を言いながら上条の「お、おい?」という言葉もスルーして来た時と同じように空間移動(テレポート)を発動させて白井黒子は消えて しまった。 案内を止められたままのウエイトレスが事の一部始終を見ていたが全く動かなくなってしまった上条の対応に 困っておろおろとしていたが丁度そこへ店内の一席から声を掛けられた。 「おーい、当麻。こっちだこっち、さぁ早く来なさい。 母さんが楽しみにしてるだろう」 「あらあら刀夜さんったら。 本当は自分が一番楽しみにしている癖に」 おろおろするウエイトレスにその席を指差して「待ち合わせ相手はあそこの席みたいだ」と告げると 「はい、かしこまりましたー。 ではお席の方へご案内いたします」と言って満面の営業スマイルをくれた。 先を歩いていくウエイトレスについて店内を歩いて声の主と同じボックス席に座る。 「あんまり大声で騒ぐんじゃねぇよ。他のお客さんとか見てんだろ」 「あらあら当麻さんったら恥ずかしがり屋さんなのかしら。 刀夜さんどうしましょう?」 「こら当麻。あんまり恥ずかしがるんじゃ無い! 母さん困ってるだろ」 向かい側に座る上条の両親 上条刀夜と上条詩菜は大声などあまり気にしてない様子で話を続ける。 それを見るとまたかよ。と言う気持ちになるがこの夫婦はいつでもこうなのだ。 いまさら息子の注意なんて気にも留めないだろう。 際限なくラブラブぷりを発揮する上条夫妻をいい加減にしろと手で制して 「喫茶店か、食料の持ち込みとか駄目なんじゃないのか?それとも何か注文するのかよ?」と聞いてみる。 「当麻、ここの喫茶店はな、なんと大覇星祭中だけ弁当の持込がOKなんだそうだ!どうだ?すごいだろう?」 「いや全然―。でも結構穴場だな、毎年大覇星祭中はどこの公園も弁当が食べられそうな場所はみんな埋まっちまうからなぁ」 「そうなんだよ、生徒の競技終了と共に会場を締め出されるから競技場では食べれないし、公園はどこも埋まってるから困った困った」 「ふーん、でどうしたんだよ結局? 適当にぶらついてここを見つけたのか?」 上条の質問に刀夜は自分の席と通路を挟んだボックス席に座る大学生ぐらいの女性を見て 「そこの女性がな、一緒に食べないかと誘ってくれたのだよ。 いやぁ親切な人が居るもんだなぁ当麻。 あ、あとそこの席のお二人さんには礼を言っときなさい。 お前を待っていてくれたんだからな」 向かいの席の大学生風の女性と目が合う。 上条は正直かなりの美人だと思った。上条の視線に気づいて大学生風の女性がにっこりと笑顔を作る。 「はじめまして、上条当麻くんだったかな? いつも娘がお世話になっているみたいで」 大学生風のお姉さんは上条に向かって軽く頭を下げてくる。 「う、え?娘!? 娘って誰!?お世話した記憶なんてないんですけど!?」 予想外の言葉にワタワタと慌てる上条を見てお姉さんは自分の向かい側に座っていた少女を指差してこう告げる。 「御坂美鈴。ここにいる御坂美琴の母です、当麻くんよろしくね」 「「母・・・母親・・・・ッて!?えええええ!!」」 上条と刀夜が揃って絶叫する。 とても信じられないと言った感じで美鈴を見る上条親子だったがにこにことお嬢様スマイルを絶やさない詩菜を見て 「「ま、ありえないことではないわな」」と納得してしまった。 「当麻くんの事は娘からいろいろと聞いてるわぁー。あんなこととかこんなこととかぁ――っ痛!? 美琴ちゃんがぶったぁぁ!? 娘に殴られた・・・・ショボン」 ボックス席でくねくねと腰を振って目をキラキラさせて娘の秘密を語る美鈴に向かい側からゲンコツを振り下ろし、肩で息をする美琴は 瞳をウルウルさせる美鈴を無視して上条を睨むと 「アンタ!この馬鹿母が言ったあんなこととかこんなこととかはみーんな嘘っぱちだからね!!本気にしないでよ!」ギャアギャアと一気にまくし立てる。 当の上条は「あ~コーヒーが安いなーこんなに安くていいのか喫茶店のコーヒーって」とかメニューに目を移して完全無視を決め込む。 「あ~!なんだってアンタはいつも私のことに対する優先順位がこんなに低いのよ!!店内入った時から気づいてた癖に席につくなりこれかぁ!!」 「気づいてたなら声掛けろよ」美琴の抗議をさらりと受け流して上条は現状を確認する。 (なるほど、ここからだと入り口側は立っている人間しか見えないのか・・・じゃあ白井は美琴からは見えていなかったんだな) 「いやぁ、仲が良いですなぁ。当麻がこんなに元気そうなのは初めて見ます。 お宅の娘さんのおかげですかな?」 「いえいえ、うちの美琴もこんなに熱く男の子と口論するのなんて初めてみますわ。ケンカするほど仲がいいと言いますしね」 「あらあら、当麻さんったらそんなに冷たくしたら美琴さんがかわいそうですよ」 ケンカ、というよりは一方的に文句を言う美琴を上条がさらりと受け流すという流れを見て親御さん達はすっかり意気投合していた。 「なんでもうちの美琴ちゃんってばお宅の当麻くんの事ばっかり考えていて夜も眠れないとか言うんですよぉー」 「な、なんだと!!当麻!お前その子に何をしたんだ!はっ!?そういえば負けたら罰ゲームとかその子と話してたな・・・まさか!?罰ゲーム であんなことやこんなことを!?むむむ。いかんぞぉ当麻!?」 「「やめんかぁぁ!!この馬鹿親がぁぁ!!」」 暴走する親御さんsにそれぞれゲンコツを炸裂させて上条と美琴は同じように荒い息をつく。 店内の他のお客さん達はなんだか痛い物でも見るような目でその一角を見ていた。 ありていに言えば上条達はひどく目立っていた。 上条と美琴は顔を赤くしてお互いを見るとお客さん達の冷たい視線から逃げるようにそれぞれテーブルに戻り小声で 「(ちょっと・・・あんたの親御さんもなかなか特殊ね。あんたそっくりだわ。特に私の話をちっとも聞かないところ)」 「(それをいうならお前の母さんだって、相当お前にそっくりだぞ。 特に俺の都合を考慮しないところ)」 なんだとなによ、というやり取りを通路を挟んで展開する二人を見た詩菜は閃いた、といった具合に手をポンと叩いて言った。 「あらあらやっぱり仲良しさんなのね。当麻さんたら好きな子に悪戯して泣かせちゃうタイプなのかしらー。」 「ち、ちがうっての!?なぁ父さん、母さんが暴走してるから何とかしてくれよ」 「当麻・・・正直に答えて欲しい。父さんからのお願いだ」 なんだよ、とぶっきらぼうに答える上条に刀夜は向かい側のテーブルから身を乗り出したままの美琴を指差して言う。 「孫はいつごろ見れる?っ痛!? 当麻いきなり何をする?父さんは真剣にだな!それとも何か? まだまだ新婚気分だからしばらく子供は要らない、とそういうオチなのか!?」 「お・ま・えもか!この馬鹿親がぁぁ!!」 店内に上条の叫びが木霊する。 向かい側の席で美鈴が「最初は女の子がほしいわぁ、美琴ちゃん」と顔を真っ赤にする美琴をからかって遊んでいた。 2 「お客様・・・通路を挟んでの会話は他のお客様のご迷惑になりますので・・・」 そんな喫茶店の要望で上条一家と御坂ファミリーは同じ席に着くことになった。 右から刀夜、詩菜、美鈴と並んでその向かいに当麻、美琴という座り方になり、やたらとニヤニヤする親御さんとは逆に隣同士に なってしまったせいか美琴はこちらの顔をまともに見ないでソワソワしている。 上条がたまに美琴の顔を覗き込んで風邪か?顔赤いぞ?とか聞いてみると 「な、なんでもないわよ!顔も赤くなんてなってないから!あ、あっち向いてなさいよ!」 上条の顔を見ないようにあさっての方向を見ながら怒鳴ってくる始末、美鈴はそんな美琴を見てより一層顔をにやけさせる。 詩菜は嬉しそうにニコニコと笑顔を振りまいてるし刀夜は刀夜であんなこと・・・こんなこと・・・とブツブツと言って悩んでいて誰一人として 上条の味方は居なかった。 (なにこの状況・・・お見合いかよ。もしくはどっかのTV番組の企画みたい) 困った顔をする上条を見てニヤリとあんまり品のよくない笑みを浮かべて美鈴が話を切り出す。 「ね~当麻くん、携帯電話って今持ってる? あ、それそれ貸して頂戴? うん、ありがとね」 何を唐突に言い出すんだろうこの人は、と思いつつも短パンから携帯電話を取り出して美鈴に手渡す。 「なにすんのよ、こいつの電話なんて借りて・・・使うなら私の使えばいいじゃないの」 「ん~これは当麻くんの携帯じゃないと意味ないのよー、美琴ちゃん。 可愛い娘の為、お母さんが一肌脱ごうってのよ」 娘の文句を軽くあしらいながら上条の携帯電話をカチャカチャと操作する。 『―~♪―~♪』 喫茶店の店内に携帯電話の着信メロディが鳴り響き、隣に居た美琴がビクッと反応し短パンのポケットを探って自分の携帯電話を取り出す。 携帯の画面を開いて電話番号を確認してる美琴の肩ごしにその画面が見えるが相手の名前は表示されてないようで番号だけが点滅していた。 (ん?なんか見覚えがある番号な気がするんですが、はて?) やがて美琴がピッと通話ボタンを押して「もしもし?御坂ですが」と丁寧に電話に出たのを確認すると美鈴は突然上条の携帯電話を投げよこした。 「当麻くんパース!そのまま電話に出て!!」 美鈴から投げつけられた携帯電話を受け取って上条が開きっぱなしの液晶画面に目を落とせばそこには『通話中 御坂美琴』と表示されていた。 (まじかよ・・・まさか、な・・・) と思い恐る恐る「あーもしもし、上条だけど―」と喋ってみた。 ビクゥ!と美琴の肩が震えてなにやら上条に背を向けて通路に向かってボックス席のシートに正座で座り始める。 上条が持つ携帯電話の受話器からは特に目立った音は聞こえない。 「なんでこっち向かないんだお前?おい、もーしもーし、聞こえてるか?美琴ー?」 「き、聞こえてるわよ、ば、ばか。な、なんで、この、番号知ってるの?」 上条の受話器からは自分の隣で正座する少女の上ずった声が流れてきた。 「美琴ちゃんったら照れてかーわいいー。 可愛い娘のためにお母さんからの愛の手よー」 赤くなって挙動不審な娘の姿を満足そうに見つめて美鈴は更に続けて言う。 「当麻くーん、この子はもうすこーししたらきっと美人になるわよー。なんたって私の血が流れてるんだから。 胸だっていまはちょっと控えめだけど今に私みたいになるわー。お買い得の先物買いってやつねー。どうする?どうする?」 美鈴の言葉より強調するようにその存在を主張する美鈴の胸の辺りに目を奪われて思わずゴクリと生唾を飲み込む当麻と刀夜だが それを見た詩菜の機嫌が悪くなる。 「あらあら、当麻さんはともかく刀夜さんまで。これはどういうことかしら?本当に刀夜さんったらあらあら私を怒らせて楽しいのかしら」 「い、や、母さん深い意味は無くてだね。その喉が渇いて突然生唾を飲み込みたくなっただけなんだよ!きっとそうだ!そうに違いない!!」 突然険悪なムードになる上条夫妻を気にせずにいまだに通話中の携帯に集中する美琴を指差して美鈴が続ける。 「ほらあの子を良く見て?あの子の胸と腰、それにお尻のライン、あれが成長すると――っちょ痛!!美琴ちゃんやめて! 携帯電話で殴るのはやめてぇ・・・ヨヨヨ」 「娘をいやらしい目で見させるなぁぁ!!それにアンタも!ちょっと!?そんな!?何ジロジロと・・・」 指を刺しながら美琴の胸やらお尻を上条に示す美鈴を撃沈し振り返ったところで上条の視線に気づいて慌てて胸を隠すように手で覆う。 「あわわ!見てません見てません!!美琴センセーの胸やお尻とかなんてちっとも見てません!!」 睨むような美琴の視線に思わず嘘をつく 「ほーら当麻君だってまんざらじゃないみたいだし、もっとアピールアピール!!」 「なにをアピールしろってのよぉー!!」 美鈴が頭を押さえながら真っ赤になって俯く美琴に向かってやたらとガッツポーズを連発する 上条は自分の手にある携帯電話の通話終了ボタンを押して美琴との通話を切ると俯いていた美琴の肩がビクっと震えて 上条を見て悲しそうな瞳を向けてくる。 なんで切るのよ。 瞳がそう語っていた。 「隣に居るんだから話したければ普通に話せばいいんじゃないかなーと上条さんは思ったりするんですが、なんで美琴さんがバチバチいってるのかが 理解できません!!」 一応一般論で対抗してみるが乙女心は複雑なようで少女の前髪がバチィと発光すると10億ボルトの雷撃の槍が飛んできた。 咄嗟に前に出した雷撃の槍が避雷針に呼ばれた雷のように集中し一瞬で消え去る。 「もー!普通にご飯タイムにしようよー。上条さんは朝から走り回っておなかぺっこぺっこなんですよおおおお!!とりあえずギブミー弁当!!」 と上条は叫ぶがウワーンとか言いながら電撃を撃ってくる美琴の攻撃はそれからしばらく続いた。 周囲のお客さんもオオー、これが大覇星祭かとか勝手に盛り上がってる。 10分程ビリビリ→『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の流れを続けているといい加減疲れてきたのか美琴が電撃を止めてくれたので チャンスとばかりに上条は美琴を呼び寄せて 「あー、もうメシにしようぜメシ!!このままじゃ胃袋のジダンが審判の頭突きして退場喰らっちまう。ほら!美琴も いつまでもバチバチしてないでこっち来い」 美琴の肩に手を掛けて強引に隣に引き寄せる。 右手から伝わる感触にちょっとドキっとするが構わずにそのまま肩を抱く。 「ちょ!?ちょっとぉ!」 肩を抱かれて上条の胸辺りに押し付けられた美琴が顔を真っ赤になって抗議するがその全てを無視する。 「は、はなして、よ、は、恥ずかしいから」 (放すと電撃飛んでくるから離しません・・・あんなの喰らったら上条さんはこんがりといい感じに焼きあがってしまいます。) 上条の真意はどうあれ、弱弱しく上条の体を押す美琴の手には言葉ほど拒絶の意は感じられない。 形だけ嫌がってるといった感じに見える美琴と上条を見て親御さん達は口々に騒ぎ立てる。 「あらあら当麻さんったら積極的ねぇ、誰に似たのかしら学生時代を思い出すわぁ」 「こら当麻!母さん喜んでるだろ」 「みことちゃーん!その表情すてきー!こっち視線ちょうだーい!はいシャッターチャンス!」 いちゃつく上条夫妻と娘の衝撃映像をデジカメでしきりに映す美鈴。昼時の喫茶店のその一席は当の上条の思いとは別の方向に会話が弾んでいた。 3 事態が一旦安定したので念願の昼食にありつけることになり上条、御坂ファミリーはそれぞれテーブルにお弁当を出していた。 「今日は当麻さんがいっぱい食べると思って母さんいっぱい作ってきたの、しっかり食べてね」 「こら当麻!シーチキンマヨは父さんのだ。 お前は梅干おかかでも食べてなさい」 「私だってキチンと用意してきたわよ、いっぱい食べてね美琴ちゃん。ほらどーんとね!」 どーん、どーん、どーん・・・どすん 喫茶店のボックス席のテーブルに所狭しと並べられた弁当郡。 綺麗に三角形に握られて海苔を張られたおにぎり、タコ、カニなどの形のウインナー(魚肉)、眩いばかりに黄色い玉子焼き プラスチックのフォークが刺さったミートボール、千切りにされたキャベツの上に盛り付けられた大量のから揚げ、ウサギさんカットされたリンゴ 絵に描いたような運動会風のお弁当、その中に異様な存在感を放ついくつかの物体があった。 「どーんって・・・丸ごとのチーズ?」 「それに寸胴鍋・・・どうやって持ってきたのよ」 「ちゃんとガスボンベとコンロも持ってきてるわーッ痛! せっかく美琴ちゃんの為にチーズフォンディを作ろうと思って持ち込んだのに!?ねぇねぇ当麻くん、娘が反抗期なのー助けてちょうだい」 学園都市に持ち込めないはずの危険物―ガスボンベを大きいドラムバックから取り出したところで美琴の突っ込みが美鈴を襲う。 上条に対するような電撃は使用せず純粋に鉄拳制裁なのだが見た目にはすごく痛そうだ。 少しも懲りずに美琴はしつこく大量の乳製品を摂取させようとする美鈴を無言でシバキ倒すと当然のように上条の右手の元に戻ってくる。 「ふん、乳製品を取っても別に変化は無いわよ!!」 「いや・・背は伸びるんじゃないか?アレぐらい大量に取れば。」 美琴の肩をぽんぽんと叩きながら言う上条に美琴が火に掛けられた寸胴鍋で溶けるチーズをプラスチックの器に取ってこれまた プラスチックのスプーンで上条の口へと運ぶ。 湯気が立ち昇るチーズはとっても熱そうだ、っていうかこのまま口に突っ込まれたら 絶対火傷する、そんな次元の熱さだった。 「ほほう・・・じゃあいっつもいっつも大怪我して病院通いなあんたにはピッタシねぇ・・・さぞ骨も丈夫になるんでしょう!!ほら!!ほら!! ほらあ~ん、ってしなさいよぉぉぉ!!」 「ちょ・・・もがぁぁ熱々のチーズを無理やり食わせようとするなぁぁ」 口を閉じて断固拒否の構えを取る上条と湯気の出るチーズフォンディを無理やり流し込もうとする美琴。 すでにその体勢は先ほどまでのラブラブ体勢から向かい合う獲物と狩人と言った感じの戦闘体勢へと移行している。 「いいからさっさと口あけなさいよ!!冷めちゃうでしょうが!冷めたらおいしくないでしょう!!」 「嫌です!!断固拒否します!そんな熱々のチーズ流し込まれたら上条さんのデリケートなお口の中が大惨事ですけどね!!女の子なら 普通フーとか言って熱いものは冷ましてから食べさせるだろ普通!?そういう優しさは微塵もなしですか!?」 美琴は自分の手に持ったスプーンを少し眺めてしばらくブルブルと震えた後、おもむろにそのスプーンを自分の口の前に持ってきて。吹く。 「ふー・・・ふー・・・ふー・・・」 美鈴と美琴以外の時間がピタリと止まった。上条もマジデスカ、と呻く。周囲の雑音は全て止まり美琴がスプーンをフーフー吹く音だけが支配する。 湯気が立ち昇る熱々のチーズフォンディは美琴の息を吹きかけられてお口に入れても大丈夫な温度に変化しなお一層おいしそうな香りを漂わせる。 「こ、これでいいんでしょ!さ、さっさと口開けなさいよ。」 人目で分かるぐらいに顔を真っ赤に染めて美琴がスプーンを上条の口の前まで持ってくる。 流石にここまでやられては、と観念したように上条が 「あ~ん」と大口を開けてみると途端に口の中いっぱいのチーズの風味が広がる。トローリと舌で程よい熱さのチーズが上条の味覚を激しく刺激する。 ほんのりとして柔らかいそれでいてまったくしつこくない後味。上条はしばらくそのチーズの味を楽しむと一言 「うまい」と言った。 その最高の言葉を聞いた全員が笑顔を浮かべて喜ぶ。美鈴はわーい、と両手を上げてわざとらしくバンザイをし 上条夫妻は二人でアーン、はいアーン、と食べさせあいをしている。当の美琴に到っては 「ま、まだおかわりあるわよ、ほ、ほらあ~ん」 とか言って器になみなみに盛られたチーズフォンディを再びスプーンで掬って上条に更なる乳製品の摂取を強要する。 美琴は喫茶店のベンチシートに膝立ちになって前かがみで更に上条の方へと距離を詰めて 上条と美琴の周りだけがピンク色の空気を纏わせて喫茶店の店内の他の空間と強烈な温度差を生み出す。 「(うう、周囲の視線が痛い・・・おいしいけどなんか恥ずかしい)・・・パクリ」 早く食べなさいよ、と物語る美琴の視線に負けて上条が再び口を開くとすかさずスプーンが捻じ込まれる。 もはや上条とチーズフォンディしか目に見えてないのか美琴は執拗に上条の口にチーズを運び、上条は上条で差し出されたチーズをパクパクと食べる。 食べる→捻じ込む→食べる→捻じ込む、もはや一種の職人芸のようなタイミングで二人の動きが高速化する。 まるでわんこそばの早食い大会のような風景にギャラリーもおもわず感嘆の声を上げる。 (げぷ・・・もうお腹いっぱいですよコンチクショー) 何回かの美琴のおかわり攻撃を繰り返し器どころか寸胴鍋の中身が底を尽きはじめた頃上条の胃袋の空きスペースも底を尽いた。 「あらあら、当麻さんったら全部食べちゃったのかしら、これでは御坂さん達が食べるものが無いじゃないのかしら?」 「あーいえいえ、こんなにたくさん食べてもらっちゃてかえって嬉しいぐらいです。やっぱり男の子は食べっぷりが違うわねー」 「あの、もしよろしければウチの弁当でもいかがですか、そちらのは息子が全部平らげてしまったようですので。困ったものですなー全く」 お腹がパンパンになって苦しそうな上条なんて露知らず、ほのぼのとした親達も喫茶店に来た時よりも打ち解けて見える。 「美琴ちゃーん、当麻くんはもうお腹いっぱいみたいだからー、そんなに悲しそうな目をしても多分無理。やめときなさいー」 「ワリィ、本当に満腹です。これ以上はいくらなんでも食べれません・・・・」 美琴はそうなの?、といった視線を向けてくるが上条はその視線に全力で肯定する。 結局、胃袋の全容量を大量の乳製品だけで埋めて上条はそのままゴロンとシートに横になった。 ポフ (お、やわらかい・・・って何ィィィィ) 寝転んだまま視線を上に向ければキョトンとした顔でこちらを見下ろす美琴の顔が見える。 その顔はもはや赤くないところを探すのが困難なくらいに紅潮している。 「まぁまぁ、当麻さんったら。新婚時代を思い出すわぁ、ねぇ刀夜さん?」 「こら当麻!!母さんが喜んでるじゃないか、もっとやりなさい」 「美琴ちゃんここがチャンスよ!膝枕作戦で一気に畳み掛けるのよー」 迫り来る電撃の恐怖に上条がガタガタと美琴の膝枕の上で震えていると上条の頭をぽんぽんと優しく叩いて美琴が言う。 「あんた食べすぎなのよ。食べれないならそういえばいいじゃない。」 「お前が食べさせたんだろうが・・・うっ・・・動くとチーズが・・・」 美琴ははいはい、と言うと上条を自分の膝の上で寝かせたまま詩菜からよそってもらった上条家の弁当を食べ始めた。 その顔はいまだに赤いが大分来た時より柔らかそうな表情だった。 途端に上条に強烈な眠気が襲ってきた。 胃袋から脳みそへ超満腹、もう食べれません信号が送られ脳みそからはかわりに全身に お昼寝せよの指令が送られる。 実際頬に当たる美琴の膝枕は大層気持ちよくてこのまま身を任せればきっとスヤスヤと夢の国へ旅立てる事は間違いない。 「前にも一回あったけど・・・お前の膝枕ってすっげーねむた・・ゴファァああ」 「人の膝の上で恥ずかしい台詞言うな! ほら!?そこの馬鹿親が前の一回って何なのとか聞きたそうにしてるじゃないの!このばか!」 上条の素直な感想は羞恥心で顔を真っ赤にした美琴の腹部への強打によって中断され、上条の眠気は一気に吹っ飛んでしまった。 「美琴ちゃん~、お母さんすっごく気になるわー。教えて教えて?前の美琴ちゃんの膝枕って一体なんなのかしら?」 「関係ないッ!!きっとコイツの記憶違いでしょッ!!だからニヤニヤしながらにじり寄らない!」 苦しむ上条はどうでもいいのか、御坂親子は再びドタバタしながら暴れだす。 それでも美琴は一応自分の膝枕で横になっている 上条を気遣っているようで下半身はほとんど動かさず上半身のみを駆使して美鈴の魔手から身を守っていた。 とても安眠できるような状況ではないのだがどうせ昼御飯の時間が過ぎれば再び土御門やステイルと合流してオリアナを追わなければならなくなる。 ならせめて今だけでも休んでもいいかな、と静かに目を閉じて吹っ飛んだ眠気を再び呼び起こす。 「美琴、少し寝るけどいいか?移動するようになったら起こしてくれ」 ピタリ、と上条の言葉を聞いた御坂親子の動きが止まる。 上条夫婦も合わせて8つの視線が上条に集まる。 というより実は店内の視線が全て美琴の膝枕で目を閉じる上条に注がれていたのだが当然上条は気づかない。 軽く寝息を立てて自分の膝枕を占領する少年に向かって 「あ、そう。じゃあ今回だけだからね、移動するようになったら叩き起こすわよ」 美琴はスヤスヤと眠る上条の顔を撫でて少し困った顔でそう呟いた。 END [解説] インデックスが登場しないIF世界での出来事 本編であるFestival of large star IFは打ち切りになったが作者は書き直すらしい。 この短編はもしその設定で進んでたらこういうシーンもあったということらしい。 原作と違いインデックスが登場しないためか上条と美琴の関係が少し良好 白井黒子ともフラグが立ってるようだがあくまでもヒロインは美琴との事